:
1

――ずっとずっと昔から――

[現在:いま]に至るまで紡がれ続けてきた決意。信念。思い――

――約束。そして――

――因縁は――

ファイオス :
一人で戦い続けてきた俺が負けるわけが無いっ!俺の努力を! 俺の苦悩を!俺の痛みを!!

てめぇみてぇな甘ちゃんに無駄にされてたまるかよっ!

<HERO_NAME> :
たった一人のお前の妄執に!みんなを! 世界を壊させたりはしないっ!!

——決着をつけるぞ!ファイオス!!

 :
――世界そのものを巻き込む、大きな悲劇と化してしまった。

多くの生命がなすすべなく飲み込まれた。けれど――

<HERO_NAME>の声 :
……大丈夫だよ。必ず世界を救ってみせる。きっと全部元に戻る。

アイリス :
……あなたが無事なら……それだけで……

<HERO_NAME>の声 :
……先に行っててくれ。大丈夫だから。

アイリス :
……わかった。

飛行島で待ってる。

 :
<[FF9600]零[FFFFFF]>に侵され、消えたはずの海は、空は、土は、雲は――失われた生命はふたたび戻ってきた。

<HERO_NAME>たちと、引き換えにして。

――そして。しばらくの時がたった――

孤児院の先生 :
はぁ、はぁ、はぁ……!!みんな……急いで!!

異様な魔物 :
――――――――――――

警ら隊 :
うぉおおおおおおお!!!!

くそ……くそ……!!まただ……!!

こいつらどうして――[攻:・][撃:・][が:・][効:・][か:・][な:・][い:・][ん:・][だ:・]……!?

孤児院の先生 :
……ッ……!!みんな、立ち止まらないで!!早く――

男の子 :
ああ、先生……まただよ……

こわいやつらが…………また[空:・][か:・][ら:・][ふ:・][っ:・][て:・][く:・][る:・][よ:・]……!

孤児院の先生 :
……ああ、お願い……お願いだから……もう……

この子たちから……なにも奪わないで……!

??? :
奪わせない。

……立てますか?早く逃げてください。あの人たちも必ず助けます。

異様な魔物 :
――――――――――――

アイリス :
いきます。

 :
2

異様な魔物 :
――――――――――!!!

アイリス :
……! まだ――!!

??? :
ずぇりゃりゃりゃーーー!!!

ソアラ :
もったいぶっての勇者ソアラ!!ぺかっと華麗に参上ダダダー!!!

??? :
ひかえよ、禽獣ども。

シャルロット :
わたくしは<[AC0D0D]光焔の御子[FFFFFF]>――シャルロット・フェリエ。あまねく邪悪を焼き尽くし、人々に光をもたらす者。

異様な魔物 :
――――――――――!!!

シャルロット :
って、だぁああああ!!まだウヨウヨいんじゃねーか!!

アイリス :
殲滅します……!!

シャルロット :
あ~……疲れたぁ……これでここいら一帯片付いたんじゃね?

少女 :
本当にありがとうございました……もうだめだと……

アイリス :
あの奇妙な魔物たちは、いったいどこから?

少女 :
……突然だったんです……たった数日前――

突然、[空:・][が:・][お:・][か:・][し:・][く:・][な:・][っ:・][て:・]――それから、あいつらが現れて……

ソアラ :
他のトコとおんなじですな。やっぱり、出どころは[あ:・][そ:・][こ:・]なんでしょーかね?

アイリス :
……うん。もう間違いない。あの異様な生物たちは――

<[AC0D0D][空の上:あそこ][FFFFFF]>から――降り注いでる。

キャトラ :
みんなおかえり!ケガしてない!?

アイリス :
ただいま、キャトラ。留守番お願いしちゃってごめんね。

シャルロット :
ハラ減ったぁぁ~……ビーフ! 焼き立てのビーフめっちゃ食って明後日まで寝る!!

ヘレナ :
みんな、お疲れさま♪干し芋パイ、たくさん作っておいたわよ♪

シャルロット :
ぐ……やっぱ干し芋かよぉ……!

ソアラ :
どこもかしこも食糧不足ですからなもぐもぐもーぐもぐもぐもーぐ。

カルマ :
――よぉ。どうだった?<[AC0D0D]新装備[FFFFFF]>の成果は。

アイリス :
はい。件の<[AC0D0D]零化生物[FFFFFF]>と同様――

――この空の変容と同時に各地に現れた奇妙な<[AC0D0D]敵[FFFFFF]>にも、<[AC0D0D]新装備[FFFFFF]>の力は有効でした。

キャトラ :
新装備ってゆっても、剣とか防具みたいにカタチはないんでしょ?

ルーファス :
ええ。アプローチとしてはインプラント魔術に近いものです。

<[AC0D0D]零世界[FFFFFF]>侵入の際に用いられたアイリスさんたちの装備を解析――

条理の[埒外:らちがい]にある存在への干渉率を増幅することで、攻撃対象を僕の人生みたいに崩壊させる――

さらには副次的効果として、被術者のソウルの効率化・活性化を実現した新たな技術体系。

名付けて――<[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>。

アイリス :
<[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>……

シャルロット :
意味ワカンネス。

キャトラ :
ムズカシス。

ソアラ :
ゴメス。

ヘレナ :
パイにしたら美味シス?

カルマ :
ククク、せいぜいありがたく使っとけ。

科学者連中総出で研究明け暮れて、奇跡みてぇな一瞬の偶然のしっぽ掴み取ってようやく見つけた仕組みだ。

だが率直なとこ、原理そのものはいまだブラックボックスだ。不安定なことには変わりねえ。

ルーファス :
そもそも術式の適合者自体が希少ですし、肉体への負荷も少なくありません。……どうか、無茶はせずに。

アイリス :
はい。ありがとうございます。

ヘレナ :
あ、そうだわアイリスちゃん。よければバロンさんの様子、見にいってあげてくれない?

アイリスちゃんが呼びかけたら……少しは違うかもしれないから。

アイリス :
……はい、わかりました。

 :
3

バロン :
――――

キャトラ :
……バロン、ファイオスとの戦いの後から、なんだか具合悪そうで……

……こんなになるまで、どうして気づいてあげられなかったんだろう……

アイリス :
……バロンさん。世界はいま、再び大変なことになっています。

ファイオスとの戦いからしばらく後――空に大きな異変が起こりました。

それと同時に、得体のしれない敵も現れて……

飛行島のみんなや、冒険家の人たちで分かれて対処にあたっていますが……とても手が足りません。

<HERO_NAME>がいなくなったことに呼応してか、それとも世界中のソウルの輝きが減衰し始めている影響か――飛行島の機能も、日に日に不安定になっています。

空の上を調べにいこうにも……今の飛行島では叶わなくて。

キャトラ :
7つの<[AC0D0D]大いなるルーン[FFFFFF]>がなくなっちゃって……それで、他のルーンの力まで少しずつ弱まってるみたいだし……

……とにかく、世界中が大変なの。

アイリス :
あの日の旅の始まりから……バロンさんはいつだって、私たちを見守ってくれていた。

そんなあなたがいないのは……さびしくて、不安です。

ソアラ :
……どないでしたか?

シャルロット :
た、たぶんなんかどーせほら……今まで無理してた分、まとめてグータラしてるとかそんなだし……

アイリス :
ありがとうございます。気を遣ってくれて。

キャトラ :
せめて、バロンが突然こうなっちゃった原因の手がかりでもあれば……

ソアラ :
ルーンドライバーはどうなんです?何か今後の手がかりなどは?

アイリス :
以前に一度光ったんだけど、今はまた沈黙しちゃってて……

キャトラ :
ヒントくらいくれればいいのに。ルンドラのけちんぼ!!

ソアラ :
でしたら一度、アストラ島に戻ってみるのはいかがでしょ?

バロンさんの不調と飛行島の異変って、時期いっしょなんですよね?

<HERO_NAME>さんが現代で育ってきたのも、長いこと飛行島が眠ってたのも、バロンさんが腰落ち着けてたのもアストラ島なんでしたら――

その辺の諸々に関するナニカが眠っちょるかもと……ふ~~~~~~~っと思いまして。

シャルロット :
ほぁあ!?耳に息吹きかけんなし!

アイリス :
(たしかに、バロンさんは謎の多い人だった……)

(飛行島のことも、私のことも、ルーンドライバーのことも――普通の人では知り得ないことを、彼はたくさん知っていた――)

シャルロット :
ね、リス。むつかしく考える必要ないんじゃない?

キャトラ :
アタシはバロンを助けたい。アイリスは?

アイリス :
……うん、私も。バロンさんを救えるなら、どんな可能性でも試したい。

――行きましょう。アストラ島へ……!!

シャルロット&キャトラ&ソアラ :
おーーーーーーーー!!!

シャルロット :
……飛行島、もつ?

アイリス :
えっと……きっと……!

ソアラ :
スリリンヌゥー。

 :
――そして――

シャルロット :
ギリギリどーにか着いたけど……

キャトラ :
なによ――なんなのよ、アレ――

アストラ島に――何があったのよ……!?

アイリス :
――!?

(なに、この感覚は……?)

(アレは――いったい何なの――!?)

 :
4

アイリス :
はぁ、はぁ、はぁ……!!

シャルロット :
だーー!!待てってのリス!!

キャトラ :
なによ、あのでっかいの――あんなのどこから降って湧いたのよ!?

アイリス :
わからないけど――嫌な予感がする……!

あの方向にはウェルバ村が――

彼の大切な場所が――!

お願い、どうか無事でいて……!!

キャトラ :
こいつら!!こんなトコにまで……!?

アイリス :
どいて――!!

異様な魔物 :
――――――――――――

アイリス :
……! まだこんなに……

ソアラ :
焦っちゃだめですぞアイリスさん!まずは深呼吸でフーフスフー!!

アイリス :
でも、島のみんなが……!

シャルロット :
あーもーラチがあかねー!!リス! あたしが食い止めっからトラたちと先行って!

キャトラ :
無茶お言いでないわよ!!一人じゃ……!!

シャルロット :
御子ナメんなし!ただしここ切り抜けたらアストラ料理たらふく食べてぜってーグータラする!!

(とは言え……くっそ。こんなウヨウヨいるんじゃ――)

(こんな小さな島の連中なんてとっくにもう……!!)

異様な魔物 :
――――――――――!!!!!

キャトラ :
また来る……!!

??? :
――うぉぉおおおおおお!!!

悪い、驚かせちまったな。

ダグラス :
――とっさだったもんで、声かける余裕がなくってさ。

アイリス&キャトラ&ソアラ :
ダグラスさん!?!?

異様な魔物 :
――――――――――!!!!!

ダグラス :
そうそう全員でかかってこい。まとめて片付けてやるからさ。

なんせ――<[AC0D0D]できちまう[FFFFFF]>モンでねッ!!!

 :
5

ダグラス :
ふぅ、っと。ひとまずこんなモンか?

ソアラ :
ほげー……ダグラスさん無双でしたな。

キャトラ :
ちょっと……アンタ、どうしてここに!?

ダグラス :
あ~、それはな――

アイリス :
――! そうだ、急いで村に行かないと――!

ダグラス :
その辺は安心しろって。ちゃんと仲間が守ってくれてる。

ケガ人こそそこそこいるけど、みんな無事だぜ。

アイリス :
……ほ、本当ですか……?

シャルロット&キャトラ&ソアラ :
よかったぁぁああああ~~~……

ダグラス :
実は少し前から、仲間と一緒にこの辺りの海域の調査任務についててな。

昨日の夜、船からアストラ島の異変に気づいて、急いですっ飛んできたのさ。

シャルロット :
仲間ってことは……<[AC0D0D]レディ・キラー[FFFFFF]>の活動?

ダグラス :
ああ。今はみんなで手分けして世界中を飛び回りながら、治安維持やら異変の原因究明に努めてるってワケだ。

ソアラ :
いわゆるレディ活ですな?

シャルロット :
ダグがレディみたいじゃん。

ダグラス :
やめろよ……

ソアラ :
エートですね。ちょいと差し出がましいアレなのですが……

……だいじょぶです?その……お体とか。

キャトラ :
そうよ……アンタってば、<[AC0D0D]瘴気[FFFFFF]>のせいでちょっと前までズタボロのフラフラのプリンプリンだったじゃん……

アイリス :
プリンプリンではないよ……

ダグラス :
心配してくれてありがとな。でも、さっき見たろ?心配ご無用ってヤツさ。

アイリス :
……ダグラスさん。もしかしてあの動き、あの力は――

ソアラ :
ゴメスっすな!

シャルロット :
ゴンザレスっしょ。

キャトラ :
バルサミコスじゃないっけ。

アイリス :
(誰も覚えてくれない……!)

ダグラス :
ああ。カティアたちが生み出して、オレたちに託してくれた力――

アイリス :
……<[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>。未知の敵への攻撃力だけでなく、戦闘力自体もあそこまで跳ね上がるんですね……

シャルロット :
えー、ダグだけずるくね?あたしらが使ってもあんな感じになんないし!

ダグラス :
そりゃ仕方ねーって。オレには一日の長があるからな。

キャトラ :
どゆこと?

ダグラス :
何を隠そう……アレの開発のために人体実験されまくってたからな。

つーワケで、今のオレはダグラス改めロボダグラスだ!あらためてよろしくな!!

キャトラ&シャルロット :
え゛ーーーーーーーーーーーー!?

ソアラ :
オホホゥ~……マッドサイエンティスティ~……

アイリス :
えっと…………え? ほんとにロボに……?

ダグラス :
ワケあるか。

オレからカティアに頼んだんだよ。皆がこれから先も戦うために、この身体を使ってくれってな。

なんでまあ、この新しい力の扱いは誰より心得てるってワケさ。

アイリス :
……よかったんですか?

ダグラス :
ん?

アイリス :
だってダグラスさんはとっくに、自身の使命を果たして――

あとは平穏に……誰よりも幸せにならないと……いけないのに……

ダグラス :
おいおい。皆の苦しみの先にある幸せなんて、オレは死んでもごめんだぜ?

それに――<HERO_NAME>だって助けに行ってやんねえと。

<[AC0D0D]できちまう[FFFFFF]>兄貴分としてはな。

アイリス :
――はいっ。

ダグラス :
さて、そんじゃひとまずウェルバ村に急ごうぜ!休憩も必要だろ?

キャトラ :
ヘレナも連れていきましょ♪アストラ料理アストラ料理~♪

シャルロット :
やっふーー!!食うぞ食うぞ~っと♪

 :
6

アイリス :
大丈夫ですか?

青年 :
手当てありがとね……がんばって戦ったけど全然歯ぁ立たなかったわ……

シャルロット :
湿布いくぞー。てい。

おじいさん :
あだだだだだ!!もっと優しくやらんか!!

シャルロット :
こんくらいガマン!あたしだって一応ケガ人なの!!

おじいさん :
オロロ~~ン……オロロ~~ン……

シャルロット :
泣くなし!……泣いてんのそれ?どうなの!?

おばあさん :
おぉい、若いの。肩揉んでくれぃ。

シャルロット :
自分で揉め!雑用係じゃねーし!!

あぁぁ……お腹減ったぁぁ……休みたいぃぃ……

アイリス :
すみません……でもけが人が多いので、今は治療を優先しないと……

シャルロット :
わーってるよ言ってみただけ!!おら次の患者こーーい!!

イリア :
アイリス、包帯の消毒が済んだ。ここに置いておく。

アイリス :
……イリアさん。本当にありがとうございました。

イリア :
? この程度の雑用――

アイリス :
じゃなくて。イリアさんたちが、島の人たちを守ってくれたって……

イリア :
状況に居合わせられたのはただの偶然だ。感謝はいらない。

……無言で笑顔を向けないでくれ。

シャルロット :
んでさ、リア?島に突き立ってるアレ……いったいなんなワケ?

イリア :
不明だ。わかっているのは『昨夜、突然降ってきた』という一点だけだな。

例の新種の魔物も、あの構造体の出現と同時にこの島に現れたそうだ。

シャルロット :
ふぅん……じゃあアイツら、あのデカいのから生まれてるってこと?

イリア :
わからん。調べようにも、敵は数を増やし続けている。ここを離れるわけにいかなかった。

アイリス :
少し落ち着いたら、態勢を整えて調べにいかないと……

シャルロット :
はぁ~あ……ここ最近ぜんっぜんグータラできてないわぁ……つらいわ~~だるいわ~~~。

イリア :
……君は相変わらずだな。シャルロット。

シャルロット :
当然。あたしのモットーはスローライフ!毎日好きなだけ寝てビーフ食ってスイーツ食いたいの!

アイリス :
でも……新装備の実験も、それに今回の旅だって……シャルさん、自分から申し出てくれましたよね。

シャルロット :
……っ…………記憶ない……

アイリス :
それに、あの戦いのあと、私が落ち込んでいた時にも何回も様子を見にきてくれて――

イリア :
なるほど。

シャルロット :
なんのなるほどだ!!

それにいちおー……あたしだって……気にしてんの。

……こないだの戦いで。どうしようもねーくらいヤバい奴にいいようにやられて……なんもできなくって……

……孤児院のあいつらも、ルクサントのやつらも……顔知ってるみんなだって……ぜんぶ、飲み込まれて。

……だから決めたワケ。ぜってー有名になって汚名返上すんだーって!!

アイリス :
へっ?

シャルロット :
――わたくしは<[AC0D0D]光焔の御子[FFFFFF]>!新たなる力にて再び立ち上がり、混迷の世に平穏と秩序をもたらせし者なり!!

……って感じで、この逆境利用してもっと有名になりゃ、今度こそネームバリューで一生グータラ安定確定っしょ?

イリア :
……そうだな。

幾多の敗北や絶望に叩きのめされようと……立って。そして戦わなければなにも始まらない。

シャルロット :
いや、なにしみじみしてんの……いちおーツッコミ待ちだったんだけど……

イリア :
私事だ。構うな。

それより、この島での事態が落ち着いたら、二人とも私の修練に付き合え。この<[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>という代物、なかなかに奥が深い。

アイリス :
ぜひお願いします!

シャルロット :
やだーー!!グータラすんのーーー!!!

 :
7

ソアラ :
トンテンカンテンテーーン!!テントンカンテントーーン!!

ダグラス :
ふぅ……急造のバリケードだが、そこそこいい感じにできたな。

ソアラ :
トントンカンカントンカーン!すみません金槌でおもっくそ指イキました。

ダグラス :
だぁ馬鹿! ほら見せてみろ!!

村長 :
みなさま、ご苦労さまです。わしはこの村の村長です。

ソアラ :
こんちゃす。

村長 :
かねてより、この村にはどこか物足りなさを感じていたのです。

それはおそらく、あるものがないからだと思うのです。

ダグラス&ソアラ :
あるもの???

村長 :
わしの石像ですよ。ふつうどこの村にもあるでしょ?村のシンボル的な。

というわけで、バリケードと共にわしの石像を建てたいのですが……

ソアラ :
石ころに村長って書いて飾るだけじゃダメです?

ダグラス :
金魚の墓かよ。

村長のような人 :
ハハハッ。確かにわしはその程度の人間かもしれませんな。そもそも村長じゃありませんし。

ダグラス :
じゃあ誰なんだ!

ソアラ :
気を遣ってくれてるんですかね。つらいときこそ笑いは必要ですし。

ダグラス :
裏の笑いすぎるだろ……

村長のような人 :
おおこれは失敬……大切な大切な大切なお二人に束の間の娯楽をお届けしようと目論むも力及ばず……

シュガー :
さあさあ足蹴にどうぞどうぞ。私めなど道端の小石であります故。

ダグラス :
ったく……おまえの変装かよシュガー。

ソアラ :
あらためてこんちゃちゃっすのソアラっす!お話するのはお初でしたっけ?

シュガー :
これはこれは愛らしい……今すぐお口に放り込んでコロコロと舐め転がしたい……

ソアラ :
したらばあたしはお口の中でペカっと光りますぞ。

シュガー :
頭蓋骨がスケスケ~。

おっとそれでは私め、哨戒に戻りますゆえ……あぁ~~~ばよォ~。

ダグラス :
……ヘンな奴で悪いな。アレでも、オレやイリアと一緒に島の人たち守ってくれてたんだぜ?

ソアラ :
ほんじゃよき人ですな!あとで菓子折りでも持っていって目の前で食べましょう。

ダグラス :
おまえが食うのかよ!

ソアラ :
……ダグラスさん、お元気そうでほんとによかったっす。

ダグラス :
ああ、ソアラもな。最近はもうバタバタのドタバタで、学園にも行けてねえもんなぁ……

ソアラ :
……ほんとにお体、大丈夫です?太りガマンとかじゃないです?

ダグラス :
痩せガマンな。

マジで大丈夫だよ。カティアやユーリエたちが頑張ってくれたおかげでさ。

カティア :
これでアンタは一応、人並み以上には戦えるようになったわ。

ダグラス :
ああ。マジでありがとうな、カティア。

カティア :
ただ、<[AC0D0D][EMETH:それ][FFFFFF]>はあくまで戦闘補助のためのシステム。

中枢部分はブラックボックス[塗:まみ]れ。かつ特殊なアンタの身体にあわせてチューニングしてある分、造りも繊細になってる。

――酷使すれば、どんな問題が起きるかわからないわ。

くれぐれも過信はするんじゃないわよ。

ダグラス :
……前みたいに<[AC0D0D]瘴気[FFFFFF]>を吸って戦うとかはできねえけど、今なら充分、皆の役に立てるさ。

そういうソアラこそいいのか?こんな前線に出てきちまって……

ソアラ :
あたしも迷ってたんす。どーしょっかな~~と。

前の戦いのとき、ほんと~になんに~もでき~ず泥にゴックンと飲み込まれ。

あたしはいつまでたってもしょせんあたしだな~と……

ダグラス :
…………

ソアラ :
ぁだが!!そーゆーどうしようもない思春期の古傷的なアレソレはもうとっくに乗り越えたな~って、ふとおふとんの中で思い直しまして。

おばあさんになる前に死ぬのも、おっとさんや周りのみなさんがそうなるのもごめんです。

ダグラス :
ソアラ……

ソアラ :
なんせあたしは、世界を照らす勇者ですから!

ダグラス :
――気合充分だな。オレも元<[AC0D0D]魔剣士[FFFFFF]>としちゃ負けてられねえな!

ソアラ :
なんか魔剣士と勇者って敵同士っぽい感じしません?ワーディング的に。

ダグラス :
お、やるか!?んじゃ修行がてらかかってこい!!

ソアラ :
どんすこどんすこ~~い!!

 :
8

ヘレナ :
はい、アストラ料理のフルコース。しっかり食べて元気だしてね♪

シャルロット&ソアラ :
やり~~~~♪おほほ~~~い!!

アイリス :
…………

キャトラ :
めっ!!

もう! アイリスったらご飯のときにソワソワしないの!めっめっめっめっ!!

ダグラス :
そうだぜアイリス。休むときゃしっかり休まねえと。

アイリス :
ごめんなさい……やっぱり気になっちゃって……

あの巨大な<[AC0D0D]何か[FFFFFF]>の正体がなんなのか――今日は結局、何も調べられなかったので……

ダグラス :
今日んトコは村の態勢立て直したり、けが人飛行島に避難させたりで精一杯だったろ?

状況がよくわからねえ以上、夜の行軍は危険だ。調査は明日の朝一番でいこうぜ。

キャトラ :
そうそう。守りはシュガーやイリアが固めてくれるっていうし♪

アイリス :
うん。それなら安心だね。

シャルロット :
うげ、アストラ料理って肉入ってないの!? マジィ!?

ヘレナ :
この島ではお魚や野菜が主流なの。騙されたと思って食べてみて?

ソアラ :
ほんでは……騙されたァァァア!!からの~……いただきますぞ!もぐもぐもーぐ……

騙されなかったァァアァ!!!

シャルロット :
うるさーい!くっそぉ……こんなはずじゃ……もぐもぐ……

えなにこれウマ!!ウマすぎなんだけどマジで!!

キャトラ :
当然でしょ?アタシも手伝ったんだもの。

ダグラス :
どこにもいねえと思ったらこっち手伝ってたんだな。

ソアラ :
もぐもぐ。どんなお手伝いしたんですかえ?

キャトラ :
味見ぞ。

アイリス :
(ぞ……!?)

ダグラス :
でも本当にうまいよ。姉ちゃんのシチューにも負けてねえや。

キャトラ&ヘレナ :
わ~い♪

アイリス :
本当に……美味しいです。

……懐かしいな……

シャルロット :
おかわりー♡やっと苦労が報われた~ってあたしの腹が叫んでるわぁ~♪

ソアラ :
ヤットクロウガムクワレピー。

シャルロット :
勝手に人の腹アフレコすんなし!

ダグラス :
ったくおまえら、あんまり騒がしくすると迷惑になるぞー?

村人のおじさん :
構わんよ。小さな島なんだから、賑やかな方が楽しいさ。

村人のおばさん :
アイリスちゃんもキャトラも、また来てくれて嬉しいよ。あらためておかえり!

キャトラ :
えへへ、ただいま~♪

アイリス :
あの、みなさん。

聞かない……のでしょうか?どうして<HERO_NAME>がいないのか……

キャトラ :
アイリス……

村人のおじさん :
ああ、さっきヘレナから軽く聞いたからね。別にくたばっちゃいないんだろ?

村人のおばさん :
ったく、女の子を心配させて……帰ったら説教だね。

村人の青年 :
ほら、いいから食え食え!明日はきっと大変なんだから!

アイリス :
…………

ダグラス :
――はは。そりゃ育つよなぁ……

シャルロット&ソアラ :
へ?

ダグラス :
こんな優しい、良い人たちに囲まれて暮らしてりゃ――

――あんな、まっすぐでお人好しな男にさ。

 :
9

ヘレナ :
アイリスちゃん、寝ないの?

アイリス :
あ、ヘレナさん。すみません、心配させちゃって……

なんとなく、眠れなくって。

ヘレナ :
……ねえ。もし違ってたら、ごめんなさいなんだけど――

もしかしてアイリスちゃん、<HERO_NAME>のこと……島のみんなに謝りたいって、さっき思ってた?

アイリス :
謝りたい……とは、違うんだと思います。

私が謝ることは――世界を守る決断をした彼の意志も、こうして立ち上がれた私自身の決意も、否定してしまうことに繋がるから。

ヘレナ :
うん。

アイリス :
けれど、それでも。私はあの戦いの当事者の一人です。

彼のことを大切に思う人たちの、怒りや、疑問や、悲しみの……やり場のないそれらの受け皿は必要だと思って……それで。

ヘレナ :
…………

ねえアイリスちゃん。ちょっとこっちいい?

アイリス :
え? でも……

ヘレナ :
大丈夫よ。すぐそこだから。

アイリス :
……ここは……

ヘレナ :
ふふ、綺麗でしょ?

ここね、<HERO_NAME>のお気に入りの場所なのよ。

困ったときとか悲しいとき、よく一人でここに来てたの。

アイリス :
……たとえば、どんなときに?

ヘレナ :
大切にしていた剣が欠けちゃったときでしょ?サーフィンの難しい技がなかなか成功しなかったときとか、私に何回も食べかた怒られてふてくされちゃったとき……

アイリス :
…………

ヘレナ :
九九の七の段がなかなか覚えられなかったときに……パイにカナブンが突っ込んだとき。渾身のパントマイムを見せた近所のおばあちゃんが驚きすぎてぎっくり腰になったときとか……

アイリス :
……っ……

ヘレナ :
笑った。

アイリスちゃん。あまり独りで思い詰めないで?

きっと、ぜ~んぶだいじょうぶ。これまでだってそうだったわ。

アイリス :
ヘレナさん……

ヘレナ :
バロンさんはきっとよくなる。飛行島だって元気になるわ。カイルさんも、それに……<HERO_NAME>だって。

絶対に帰ってくる。お姉さんが保証するわ♪

アイリス :
……はい♪

カイルさんや……<HERO_NAME>が、たとえどんな場所にいようとも――

絶対に、連れ戻してみせます。

 :
10

シャルロット :
……はぁ……

ソアラ :
もしかしてんごごごごすぴーすぴー眠れないんすか?ぐごごごごごご!!

シャルロット :
眠れない人のこと寝言で心配してんじゃねーよ!ってかどうやってんのそれ!?

ソアラ :
スチャ。実は起きとりましトゥー。

シャルロット :
知ってら!

ソアラ :
ほんで、どしました?聞きまっせ? 神妙に。

シャルロット :
……なんか、ここにいるとどーしても考えちゃってさ。

ソアラ :
そうですな……

シャルロット :
なんも言ってねーよ!!

ソアラ :
<HERO_NAME>さんのこと、思い浮かんじゃいますよね……

シャルロット :
そんで当てんのかよ!!逆にすげーよ!!

……これまであいつと一緒にいろんなとこ行ってさ?冒険して、食って、遊んで、寝て、戦って、遊んで、寝て、食って……

ソアラ :
バランスが。

シャルロット :
――こないだの戦いで、あたしがだいじにしてたモンも、そうでないモンもまとめて全部飲み込まれて。

自分でもびっくりするくらいキレて、ヘコんで……でもなんか、みんな助かって……

なのに、あいつひとりだけ帰ってこねーとかさ。

ソアラ :
…………

シャルロット :
……バカじゃん。ただの。

ソアラ :
そっすね。あたしはむしろ怒っとります。

あたしたちのことも。顔も声も知らない誰かのことも、世界まるっと助けるために、たった一人で全部背負って。

……こんバカヤローめい!!くのくのくのくの!!カッコつけてんじゃーねーやい!ほげげーー!!!

そんなおまえは百烈張り手でどすこいどすこいどーすこい!もひとつおまけでフンヌスガー!!

シャルロット :
…………

ソアラ :
すみません。着地点を見失いました。

シャルロット :
知んないし!!

ソアラ :
……ぜったい、助けましょうね!

シャルロット :
……とーぜんっしょ。

ダグラス :
(……ったく。何が起きてんだろうな、マジで)

(ついこないだ、一回滅んだばっかだっつーのに――手を変え品を変え……)

異様な魔物 :
――――…………!!

ダグラス :
なあ、<HERO_NAME>。オレがくたばっちまってた間に、どこに消えたんだよ、おまえは?

 :
――どこにいっちまったんだ。

11

翌朝――

キャトラ :
ヨシ!これで島の人たちみんな飛行島に避難できたわね。

シャルロット :
つっても飛行島、もうほとんど飛べないしあんま意味なさそーだけど……

ダグラス :
村にいるよかマシさ。せめてあの得体のしれねえ不気味な魔物を一掃して――

<[AC0D0D]アレ[FFFFFF]>をなんとかするまではな。

シャルロット :
どうにかするっつっても、あんなデカいのあたしたちだけでどうにかなるワケー?

ソアラ :
ひとまずあたしたちで調べるしかないっすな!冒険家ギルドが来るまでまだかかるらしいですし。

キャトラ :
……アイリス、大丈夫?

アイリス :
なんとなくなんだけど、あの<[AC0D0D]何か[FFFFFF]>から――とても嫌な気配を感じるの。

ダグラス :
嫌な気配?

アイリス :
なんというか……共鳴するような感覚、というか――

昨日、初めて見たときよりも圧が高まっているような……危うい感じがして……

ソアラ :
ぬぁるほどぬん?あたしにはサッパリですぜ。

ダグラス :
(<[AC0D0D][光の王:アイリス][FFFFFF]>だからこそ感じ取れる何かがあるのか……?)

ヘレナ :
みんな気をつけて行ってきてね。はい、お弁当♪

アイリス :
あの、ヘレナさん……バロンさんの様子は?

ヘレナ :
相変わらず。眠ったまんま……ぜんぜん目を覚まさないわ。

アイリス :
(本当に――バロンさんは何者なんだろう)

 :
(このアストラ島で飛行島が目覚めた始まりの日から、ずっと、私たちを見守ってくれて)

バロン :
私はバロン。いにしえの時代の命により[AC0D0D]飛行島[FFFFFF]の行く末を見守る者。

お目にかかるのは初めてでしたな。白の巫女【みこ】——アイリス殿。

 :
(たくさんの……いろんなことを知っていた)

バロン :
役割で言えば、<[AC0D0D]見守る者[FFFFFF]>だ。

イナンナ :
…………

バロン :
もしかすると、近いのではないかな?

 :
(イナンナさんも、バロンさんのことを気にしていた)

(<[FF9600]闇の王[FFFFFF]>との最後の決戦で、闇に侵された飛行島が墜ちてしまったときも――)

<HERO_NAME> :
――飛べ――――飛べ――――飛べ――

――飛べぇぇぇぇぇええええ!!!

 :
……………………

…………

……

??? :
――――

――――

 :
(<HERO_NAME>は……覚えのある声を聴いて)

(飛行島は再び翔んで――彼を私のもとまで運んでくれた)

アイリス :
(本当に……バロンさんはいったい……)

ダグラス :
ほら。また一人で難しい顔してるぞ?

キャトラ :
いろいろわかんないなら、わかるまで突き進むだけでしょ?今までだってそうやって――

みんなで力を合わせて冒険してきたんだから!

アイリス :
……うん。そうだね。

ダグラス :
んじゃ留守は任せたぜ。シュガーの分身やイリアの槍術は防戦に向いてるからな。

シュガー :
悲しいな~さみし~な~……でも村の皆の笑顔のためダモノ……仕方ないヨネ!!!

イリア :
くれぐれも気をつけろ、皆。……無事に戻れ。

アイリス :
――はい。いってきます。

シャルロット :
リス……

ソアラ :
なんといいますか……張り詰めてるっすね……

キャトラ :
ねえねえ、みんな!ちょっと相談なのだけれども――

アイリス :
(何が待っていようと構わない――)

(行こう。この世界と――みんなのために)

 :
――後編へ続く――