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:
1
名前――フェネッカ・クロッカ。16歳。
就職志望先――トシン島の自警団<[FF9600]ソルトホーン[FFFFFF]>。
志望動機――――身も心も強くなって、たくさんの人を守りたい!
名前――リルテット・ミッケ。16歳。
就職志望先――トシン島のギャング団<[FF9600]シガーファング[FFFFFF]>。
志望動機――――退屈だから。
ジェイク :
ギャング団――<[AC0D0D]シガーファング[FFFFFF]>へようこそ。歓迎するぜ。
レイモンド :
――君の力が必要だ。自警団<[AC0D0D]ソルトホーン[FFFFFF]>で共に働いてみないか?
フェネッカ&リルテット :
……ギャング?……自警団?
:
ぐうぜん履歴書が入れ替わり、あべこべの職場に就職してしまった[新卒:わたし]たち――
レイモンド :
話は牢屋の中で聞いてやるぜ!いくぞ、みんなッ!!
ジェイク :
……上等だ。今日こそケリつけてやる。
フェネッカ :
ケンカー! ダメー!ケンカー! ダメー!
:
――しかも、ギャングと自警団は長いあいだ対立していて、顔を合わせるたび喧嘩ばかり。
お互い、ただ島の平和を守りたいだけなのに……ほんの小さな誤解のせいですれ違って、傷つけあって――
フェネッカ :
お仕事上がりにお茶するの、日課になっちゃいましたねー♪
リルテット :
……フェネッカが毎日、誘ってくるからでしょ。しかも、追いかけっこ直後に。
:
……でも。職場も、性格も、良いところも、悪いところも、いろんなものが正反対なわたしたちは――
ぐうぜん出逢って。少しずつ歩み寄って。そして――友だちになって。
パラヨイ :
ちっくしょうぉぉお!元気すぎだろぉぉ……!
ジェイク :
――いけ。
レイモンド :
君たちは――
ジェイク&レイモンド :
新卒の星だァァアアアア!!!
フェネッカ&リルテット :
どりゃあぁああああああああああああああああああ!!!
:
自警団とギャングを騙して共倒れを企んでいた元気元気おじさんを逮捕し――
島の平和と、ふたつの組織の絆を取り戻したわたしたちは――今日もお仕事がんばってます。
S・H団員たち :
例の強盗団の残党が逃走中!!追え追えーー!!
リルテット :
はい止まってー。止まらなきゃ撃つー。
C・F構成員たち :
撃ってんじゃねえぇ!!つか流れ弾当たんだろゴラァア!!
強盗 :
へっへ……! 絶対逃げ切って――
フェネッカ :
はふ、はふぅ……み、みな……みなさん足速いですぅぅ……
強盗 :
キャーーーーー!?いきなり出てきたァァア!!!
フェネッカ :
キャーーーーー!?いきなり出てきましたーー!!
リルテット :
フェネッカ、おでこ平気?
フェネッカ :
エヘヘ……悪い人捕まえられたので落とし前オーライです~♪
リルテット :
どういう意味。
フェネッカ :
あ、もう定時ですっ!みなさん、今日もお仕事お疲れさまでしたー♪
リルテット :
私も定時だから帰ろ。みんなお疲れ。
レイモンド :
ヘイちょっと待ったァ!今日はふたりに用事があるぞ!!ちょっと残ってくれないか!!
リルテット :
じゃあ帰る。
レイモンド :
じゃあじゃあないッ!!
ジェイク :
部下にナメられてんじゃねえよ。――よぉ。テメエらふたり、今日は残業だ。
フェネッカ :
あれ、何かありましたっけ?ティッシュや芳香剤の備品交換に、明日のクッキーの仕込みも済ませてありますし……
レイモンド :
ギャングのボスが部下にクッキー焼かせてるゥ~。
ジェイク :
……所構わずベラベラベラベラよく回る舌じゃねェか新入りィ……
??? :
ククク、相変わらずだな。
カルマ :
よぉ。てめえらの大好きな<[AC0D0D]ふたりでお仕事[FFFFFF]>の時間だ。
フェネッカ&リルテット :
カルマさんっ!?カルマ?
:
2
フェネッカ&リルテット :
……新型サイバーフィールドのPR案件?
カルマ :
依頼主はオレたちだ。サイバーフィールドはお気楽も仏頂面も体験済みだろ?
リルテット :
たしか……<[AC0D0D]連続新卒辞職事件[FFFFFF]>のときみんなで潜った<[AC0D0D]データの世界[FFFFFF]>だっけ?
フェネッカ :
その節はお世話になりました~♪それで……この四角いやつが新しいサバフィールドですか?
リルテット :
生臭そう。
シズ :
以前バンズ島で、暴走AIが現実世界をデータで侵蝕するという出来事があったのですが――
今回のプロトタイプはなんと、あの事件で回収した技術をふんだんにフィードバックしてあるんです!
カルマ :
ざっくり言や、この新型は精神のみでなく肉体まるごとデータの世界に送り込める。まだ未完成だがな。
レイモンド :
つい先日、世界中が巻き込まれた痛ましい出来事があっただろう?
ジェイク :
人も世界も元通りにはなったが――味わった恐怖は据え置きだ。影響はいまだ計り知れねェ。
フェネッカ :
そう……ですね。島の人たちも元気ないですし……ケンカとか犯罪も増加傾向で……
リルテット :
定時で上がれないの増えたね……
レイモンド :
ン~~そこなのか!?
カルマ :
そこでだ……<[AC0D0D]次[FFFFFF]>に備えて、コイツを急ピッチでこしらえた。
[階層:レイヤー]の異なる世界ってのは、使い方によっちゃ緊急時の安全地帯になりうる。
シズ :
もしもまたあんなことが起きたとき……指をくわえて見ていたくなくって。
で、あらためて本題なのですが――
おふたりに、私たちが創った世界を冒険してもらい、その姿を島の人々に届けてほしいんです!
フェネッカ&リルテット :
――冒険?
カルマ :
サイバーフィールドなんて存在自体マイナーもマイナーだ。いざって時、正体わからねぇモンに生命預けられる奴はそういねぇ。
ジェイク :
そこでだ。まずテメエらふたりがカラダ張って、トシン島の連中にこのシロモノの宣伝してこい。
『サイバーなんちゃらは怖くねェ』ってな。
カルマ :
サイバーフィールドのことを地道に大衆サマに広めときゃ、いずれコイツの実用化が叶った際、スムーズな導入が可能になる。
フェネッカ :
冒険ということはもしかして、敵とかも出たり……?
カルマ :
当然。実況向けのエンタメ仕様に調整済みだ。クク、安心しろ。やられても死にゃしねえ。
リルテット :
よくわかんないけど、なんで私たちなの?
カルマ :
人の警戒心解くには、てめえらみたいに隙だらけで脳天気な奴らがうってつけだろ。
リルテット :
なんか悪口罪で逮捕。
フェネッカ :
しょ、職権乱用ですよぅ~!!
シズ :
いきなりすみません……トシン島は発展してるので、配信環境の敷設にも都合よくて……
ジェイク :
……いいから黙って準備しろ。テメエら向きのシノギだろ。
レイモンド :
ああ。君たちのフレッシュな輝きは見る人たちに勇気と! 希望を!きっと与えてくれる!!
ジェイク&レイモンド :
――ひと仕事、任せたぞ。
フェネッカ&リルテット :
――張り切ってっ!!!……仕方ないな。
:
そして数日後――
リルテット :
えーと。……これログインできてる?
フェネッカ :
だ、大丈夫そうですねっ!すーはーすーはー……!!それでは、せーの――
トシン島のみなさんこんにちは~♪し、新卒ギャングと~~!!
リルテット :
新卒おまわりさんの~。
フェネッカ&リルテット :
ふたりでサイバーフィールド攻略してみた実況――スタートで~~~すっ!!
フェネッカ :
島中の人たちに見られてるって思うと……さささすがにちょちょちょっと緊張しますねぇ~……!!
リルテット :
ねえ見てフェネッカ、カナブン。すごいリアル。
フェネッカ :
リルテットさんの心臓ちょこっと分けてぇ……
どぅぇえええええ!?いきなり強そうな敵がー!!
リルテット :
あわてすぎ。まだ始まったばっかだしどうせザコでしょ。ばーん。
フェネッカ :
元気いっぱいですねぇぇぇ……
リルテット :
いっしょに逃げよ。
:
3
フェネッカ :
ひーーん!!いきなり案件失敗の危機ですー!!
リルテット :
……なにこの武器。ぜんぜん弱いじゃん。
シズ :
おまたせしました!お困りのおふたりをわたくしシズがナビします♪
ふたりの武器にはこれまで通り<[AC0D0D]大志のルーン[FFFFFF]>が搭載されてます。効果はもちろんご存知ですよね!
リルテット :
若者のやる気とか夢とかに反応してなんか強くなったり光ったり。
シズ :
はい。そして今回の新たな武器は大志のルーンと連動し――
社会人パワーを増幅・放出可能なシステムが搭載されているんです!
リルテット :
社会人パワーってなに。
シズ :
百聞は一見に、です。あそこにちょうどいい人が!
シェリル :
ちょらっしゃー!通りすがりの社長だよ!
フェネッカ :
そんな野生の社長なんて……ってホントにいたーー!?
シズ :
本人でなくNPCですよ。さあ、強敵を倒すため、まずは社会人力を発揮してみてください!
シェリル :
社長はとーとつに名刺交換したい!よろしくお願いしますっ!はいどうぞ!!
リルテット :
いや別に私社長のこと知ってるし。いちおう受け取っておくけど……
あれ、名刺入れどこやったっけ。ちょっとまってて。
シズ :
リルテットさん残念……!社会人パワーが溜まりませんでした……!
リルテット :
なんで。
シズ :
次はフェネッカさん、よろしくお願いします!!
リルテット :
よくわかんないけどがんばって。
フェネッカ :
わ、わかりました……っ!えっとえっと、名刺を渡すのは目下のわたしからだよね……
名刺は名刺入れの上に乗せて、相手から読める向きで持つ……軽くおじぎをしてから、両手で丁寧に名刺を差し出し、そして所属や氏名を言う……!
シガーファングの新卒団員フェネッカ・クロッカと申します♪
シェリル :
ありがとうございます!フェネッカさんの名刺超カッコイイね!
ウッホ :
…………
リルテット :
名刺交換終わるまで立って待ってるのシュールすぎる……
シェリル :
私は社長のシェリルだよ!はい、名刺どうぞ!!
フェネッカ :
頂戴します♪
シズ :
フェネッカさん完璧です!『頂戴します』も添えつつ、受け取った相手の名刺を自分から見て机の左斜め前に置く流れまでばっちりでしたね♪
リルテット :
いつの間に机が……!?
フェネッカ :
きゃーー!? ぶ、武器がなんかすごい光ってますーー!!?
シズ :
社会人パワーが溜まりました!さあ、敵を倒しましょう!!
ウッホ :
ウッホォオオオオオオオ!!!
ジェイク :
おいおいレイモンドよ。ウチの新入りの方が何枚も[上手:うわて]みてェじゃねえか??
レイモンド :
ヌゥ……うちのリルテットの本気はここからなんだぞ!!調子に乗るなよバカヤロー!!
C・F構成員たち :
……フェネちゃんたちがんばってんだから、喧嘩せんで応援しましょうやボス。
S・H団員たち :
なんで団長たちだけいつまでも仲悪いんですか……
:
4
フェネッカ :
て、てりゃーーーー!!!
シズ :
初撃破おめでとうございます!今のが社会人パワーです。
リルテット :
今のがって、物理じゃん……
シズ :
この新システムは大志のルーンと連動してまして――
ウォルター・スズキ氏監修<[AC0D0D]知ってると得する社会人スキル[FFFFFF]>に即した行動をとることで、武器の出力を強化してくれます。
つまり、礼儀正しい社会人として振る舞うほど攻略が楽になります!
フェネッカ :
な、なぜそんな込み入った仕様に……!?
シズ :
し、新卒のおふたりの今後にも有益な案件になるといいな~と思いまして……
リルテット :
ほんとは?
シズ :
……カルマさんが、ちょっと変テコなルールの方がPR盛り上がるって。
C・F構成員たち :
おっしゃあフェネちゃん!!その調子で敵のタマとりまくってこいー!!
トシン島のみんな :
ギャングと自警団の新卒、どっちが多く敵やっつけるか賭けしようぜ!!
いやシガーファングの圧勝だろ。賭けになんないわ。
S・H団員たち :
リルテットちゃんがんばー!あんまり期待してないけどー!!
カルマ :
――ってな具合で、[現実:こっち]は盛況だ。ルーンモニター設置した広場もギャラリーでごった返してるぜ。
フェネッカ :
あはは……カルマさんって意外とおちゃめですよねぇ。
リルテット :
まあ、あとで撃てばいっか。
フェネッカ :
リルテットさんの引き金日に日に軽くなってませんかっ!
シズ :
数百年前――天の果てより現れし邪悪なる存在によって、この世界は混沌に包まれました。
さあ……果たしておふたりは社会人スキルという名の秩序で混沌を制し、この世界に真の平穏をもたらせるのでしょうか……!!
視聴者のみなさんも引き続き応援よろしくお願いしまーす♪
フェネッカ :
わたしとリルテットさんの社会人スキルに世界の命運が!!
リルテット :
そういう設定だよ、フェネッカ。
シズ :
設定って言わないでください~!雰囲気は大事です!
さて、先に進みましょう♪大冒険の始まりですよ!
フェネッカ :
がんばりますっ!!ちょっぴり怖いけど……エヘヘ、楽しみですねっ♪
リルテット :
……はいはい。そうだね。
フェネッカ :
あ、大志のルーン光った!ホントはリルテットさんもやる気もりもりですか~?
リルテット :
い、犬のしっぽみたいに言わないでよ……!
:
5
フェネッカ :
みなさーん!わたしたち三人は今、森林エリアにきてま~す♪
リルテット :
でも、たまに敵出るだけでなんにも起きないね。
フェネッカ :
さっそく撮れ高がピンチです……!
シズ :
あ、ふたりとも!あそこに誰か倒れてますよ!
ピアナ :
う、うぅ……だれか……
フェネッカ :
だ、大丈夫ですか!?わたしギャングなのでもう安心ですからねっ!
シズ :
セリフだけ聞くと[語弊:ごへい]が……
リルテット :
泣きっ面にギャングじゃん。
ピアナ :
私たちの村が……魔物の大群に襲われているんです……助けてください……!!
村人たち :
ウワァアアアアア!!
フェネッカ :
あわわわ……!!た、大変ですよリルテットさん!早く村人さんたちを助けないと!
リルテット :
別に大丈夫じゃない?ほら、よく見ると襲われてる人たちあんなに攻撃されても無傷だし。
シズ :
緊張感を!どうか緊張感をお願いします!!
リルテット :
でも敵多いよ。社会人パワー溜めないと……
フェネッカ :
でもこの状況じゃ社会人スキルの出番なんて……
??? :
――そこのあなたたち!!
シャルロット :
外は危険です!こちらへ避難を! 急いで!!
ようこそ。私はこの村の長のシャルロットと申します。危ないところでしたね。
シズ :
この状況はいったい……?
シャルロット :
――数日前。平和だった私たちの村は、魔物たちの標的になりました。
村人たちは恐怖に怯えながら、なすすべもなく襲われ、奪われ続ける日々を過ごし――
リルテット :
つんつん。すごいリアル。ほっぺ柔らかいよ、ほら。
フェネッカ :
話してる人のほっぺつんつんしたらだめです……!
シズ :
NPCで遊ばないでください~!
リルテット :
っていうかシャル自分で戦えば?剣もってるじゃん。
シャルロット :
ぜってーやだし!!あたしはこれからも村長権限でぐーたらスローライフ満喫すんのっ!!
リルテット :
むだに再現度高い……
シャルロット :
私たちには、嵐が過ぎ去るのをただ待つほかすべがありません……お茶をもってくるので、掛けてお待ちください。
リルテット :
ありがと、ちょうど疲れてた。
シズ :
あ、お気をつけを!訪問先の人から勧められない限り、訪問者のふたりは基本、下座に座るんですよ!
ふたりとも!社会人パワーを溜めるチャンス到来ですよ!
リルテット :
……あれ。どっちが上座でどっちが下座だっけ?
フェネッカ :
エヘヘ、わたし知ってます~♡出入り口から見て――
リルテット :
まあたぶんこっち。
フェネッカ :
行動が早いっ!
シズ :
残念……リルテットさん、社会人パワーが溜まりませんでした……
リルテット :
おまわりさんやってるとどんどんせっかちになっていく……
フェネッカ :
大丈夫です、ここはわたしが!……目上の人が座る上座は、出入り口から遠い奥の席――
つまり下座は――出入り口にいちばん近いこの席です!! えいっ!!
シズ :
やった!フェネッカさん正解です!
リルテット :
へ~、すごい。よく知ってるね。
フェネッカ :
前によそのギャングさんのアジトにお邪魔したとき、ボスの人用のひとり掛けソファに間違えて座って怒られたので、ちゃんと勉強したんです~♪
リルテット :
そんな間違いある?
シズ :
なんで無事に帰ってこれたんですか……?
シャルロット :
ああ、魔物たちが中まで!!お願いです、その輝く武器でどうか村に平穏を!!
あたしは奥でぐーたらするから。んじゃあと頼むわー。
リルテット :
……もうほっといて次いかない?
フェネッカ :
だめですよぅ!!こ、怖いですけど……わたしたちがこの村を守るんです!!
:
6
フェネッカ :
はひ、はひぃ……やっつけてもやっつけてもキリがありません~……
リルテット :
……ごめんフェネッカ。私ぜんぜん役に立ってない……
フェネッカ :
そんなことありません!まだまだ余裕ですっ!
??? :
ヌファハハハハハ!!!ちょこざいな小娘どもめ~!
魔物使いのゲイリー :
俺様は魔物使いのゲイリー!!
この村に魔物の群れを四六時中けしかけ、食料や金銀財宝を奪わせてたのは何を隠そうこの俺様よ~!!
シズ :
みなさんご注意を!このエリアのボスです!!
リルテット :
なんか勝手に自白したから、傷害と窃盗の現逮でいっか。
フェネッカ :
休日なしで魔物さんを働かせるのはコンプラ的にもアウトです!!
魔物使いのゲイリー :
ヌフハハハハ!強がりおってぃ!!
そっちのギャングならともかく、社会人力のない無愛想な貴様にこの俺様が逮捕できるか~!
リルテット :
服も着てない人に言われたくなさすぎる。
フェネッカ :
――やめてください。
……彼女を悪くいう人は、え、えぬ、えぬしーぴー……?だろうと誰だろうと許しません。いまの悪口取り消してくださいっ!
魔物使いのゲイリー :
ヌハハハハハ!!面白ぇ……それなら一つチャンスをやろうじゃねえかぁ……
今からこの俺様に対し、友だちの良いところを<[AC0D0D]プレゼン[FFFFFF]>してみやがれぃ!!
フェネッカ&リルテット :
プレゼン!?
シズ :
きました! これで自然な流れで社会人スキルを発揮できますね!
リルテット :
言うほど自然じゃないよ!無理やりねじ込んでんじゃん!
フェネッカ :
ばっちこいです!!リルテットさんの良いところなんていくらだって言えちゃいます!
まずリルテットさんはすごく勇気があってどんな事件にも臆さず立ち向かっていけるし、刑事のお父さんから習った護身術で悪い人をバタバタバターってなぎ倒せるのかっこいいです!
それに自分をしっかり持ってて嫌なことは嫌ってはっきり言えるしお仕事中はキリってしてますけど、オフではすっごく穏やかで、わたしのお喋りにも笑いながらず~っと付き合ってくれて……
ちょっと前までは野菜あんまり食べれなかったですけど、最近わたしの手料理なら美味しそうに食べてくれますし、なんとこの間は生のピーマンを一切れ飲み込めたのすごくって……
あ、あれー!?
シズ :
フェネッカさん残念……!社会人パワー溜まりませんでした!
魔物使いのゲイリー :
残念だったなァ~!!これでこの村は俺様のものだぁ!!
リルテット :
……フェネッカの良いところは、人の心に寄り添えること。
周りの人への気配りも。悪い人の心を開くことも。すごく上手で、みんな助かってる。い、以上……
フェネッカ :
…………
リルテット :
あ、なんか光った。
シズ :
やりましたねリルテットさん!プレゼンのコツは要点を押さえ、短く簡潔な言葉で!抽象的な表現ではなく、具体的なメリットをまずは聞き手に提示する――
その社会人パワーがあればゲイリーに立ち向かえます!
魔物使いのゲイリー :
ヌォォオン……!!なんという社会人パワーの輝きィ!
フェネッカ :
す……すごいすごいすごいですっ!
リルテット :
まあ、いつも始末書いっぱい書いてる成果かな。
シズ :
得意げ!!
レイモンド :
ヨ~シいいぞリ~ルテ~ット!ヘイどうだジェイク!?ウチの期待の新卒は~??
ジェイク :
まぐれで調子乗んじゃねェ……!オイ新入りィ!!自警団に負けんなゴラァ!!
C・F構成員たち :
だからこれ、そういう勝負じゃねえっスよボス……
S・H団員たち :
……まあ、観てる人たちは楽しそうだしいいんじゃない?
:
7
魔物使いのゲイリー :
ぬぉあああああーー!?
シズ :
おめでとうございます!エリアボス撃破ですね!
フェネッカ :
みなさ~ん! リルテットさんのカッコいいとこちゃんと見てくれてましたか~!!
リルテット :
まだだよフェネッカ。しっぽだけつぶしても意味ない。組織の背後関係まで、この際ぜんぶうたわせよう。
シズ :
あ、いえ、さすがにそこまでは作り込んでは……
リルテット :
吐かないと撃つ。ちゃんと吐けばちょっと撃つ。
魔物使いのゲイリー :
ちょっと撃つってなんだよ!
フェネッカ :
怖がらせちゃだめですよ?反省してるみたいですし、もう許してあげましょう?
リルテット :
……フェネッカは甘いね。
フェネッカ :
あなたもっ!もう悪いことしちゃだめですよ?
……もし何か悩んでるなら、わたしがいつだってお話聞きますから♪
魔物使いのゲイリー :
ウン……
フェネッカ :
じゃあ小指出してください♡ギャングとの約束です♪
魔物使いのゲイリー :
ヒィィ! 来るなァァ!!
フェネッカ :
ただの指切りげんまんですよ!?
次のエリアはここですかねぇ……?ふぅぅ……暑いですぅぅ……
リルテット :
誰か聞き込みできる人いないかな?
フェネッカ :
どぅえええ!?だ、誰か干からびてますー!!しっかりしてくださいー!
リルテット :
ふたりともだいじょぶ?ハンバーガー食べる?
フェネッカ :
水分ぜんぶもってかれちゃう!
シズ :
このカンカン照りは一体……?この地域はのどかな田園地帯だったはずです!
ジーク :
きっと……<[AC0D0D]竜神様[FFFFFF]>の怒りだ……
フェネッカ&リルテット :
りゅうじんさま?
ツユハ :
そこのおっきな[祠:ほこら]に棲んでるこの村の守り神だよ……
人前には絶対出てこないけど……何千年も昔からこの<[AC0D0D]アメアメ村[FFFFFF]>を聖なる加護で守ってくれてたの。
でも、長い時の中で村の人たちは竜神様への敬意を忘れていって……
ジーク :
ついにこの間、一人の村人がヘッドスピンの練習してて祠に突っ込んだせいで、竜神様の怒りが頂点に達した。
リルテット :
それが致命打じゃん……
エディ :
ごめんよ、ブラザー……
シズ :
――なるほど。この日照りは、竜神様の怒りがもたらした呪い……
フェネッカ :
そ、それならみんなで謝りにいきましょうっ!えっとまず菓子折りを用意して……あ、でも今どきはそういうの逆にマナー違反だって場合も~!!
ジーク :
……会えないよ。祠は分厚い扉でふさがれてる……
リルテット :
ほんとだ。硬。
フェネッカ :
きゃー!? ばばば、バチ当たっちゃいますよぅ!!ほらごめんなさいして~!!
シズ :
リルテットさん躊躇なさすぎ!
ツユハ :
竜神様と話せる方法は、たったひとつだけ……
ジーク :
伝説の秘宝――<[AC0D0D][盈月:えいげつ]の水鏡[FFFFFF]>があればもしかしたら……
フェネッカ :
でんせつのひほう?な、なんか神聖な感じしますねっ!
リルテット :
ああ、キーアイテムないと先進めない感じのイベントかな。
シズ :
情緒!どうか情緒を大切に!!
ジーク :
秘宝があるのは、遥か地の底……天使と悪魔が永らく[相争:あいあらそ]う地――<[AC0D0D][暗晦:あんかい]の地[FFFFFF]>……
リルテット :
地下の世界なんてどうやって行くの?
ジーク :
あ、向こうにエレベーターがあって直通で繋がってるよ。
ツユハ :
みんな、がんばってね!
フェネッカ :
エレベーターあるんですね!
リルテット :
どういう世界観なの……
シズ :
展開はスピーディな方が配信ウケがいいかなと……!
:
8
シズ :
ここが<[AC0D0D][暗晦:あんかい]の地[FFFFFF]>――天使と悪魔の大いなる闘争が続く、危険と混沌に満ちた場所です……!
リルテット :
ぜったい高難易度っぽい雰囲気じゃん。
??? :
オラオラァ~~?ナメてんのかぁ~~??
フェネッカ :
小さい子たちが怖そうな人にからまれてます……!
リルテット :
そこの悪魔! 乱暴したら逮捕――
ヴィレータ :
[ひ:・][き:・][肉:・]にしてやんよ……びしびし。びしびし。
悪魔たち :
グワぁアアア~~~!!!
フェネッカ&リルテット :
なぜ!!!
リルテット :
……ほら、持ってるんでしょ?さっさと出して、ほら。
リスティ :
お財布ならおうちですぅ……!
リルテット :
いやカツアゲじゃなくて身分証……っていうか、どういう状況?
ヴィレータ :
うちの<[AC0D0D][上司:ヘッド][FFFFFF]>を……[侮:ナ][辱:メ]られたので……ついチョップを……
悪魔たち :
うぇぇぇぇん……天使にぶたれたぁぁ……
フェネッカ :
こ、怖かったねぇ?もうだいじょぶだからね~!
レイン :
――オメーんトコの子分どもに、ウチのがずいぶん世話になったみてェじゃねえかクソ天使。
<[AC0D0D][炎是留鬼斬:えんじぇるおにぎり][FFFFFF]>……今日こそ[バ:・][チ:・][ボ:・][コ:・]にわからせてやるよ……
ルカ :
望むところだ<[AC0D0D][屈王出美瑠:クッキングデビル][FFFFFF]>……今日こそ[白黒:ケリ]つけてやる!みんな! デッパツだぁあ!!
シズ :
これは……!!天使と悪魔の大いなる闘争にかち合ってしまいましたよ……!
リルテット :
いやただのヤンキー同士のケンカだよ……
フェネッカ :
ケ、ケンカもよくないですよ!がんばって止めましょう!!
あ、あの! 落ち着きましょう!わたしがみなさんの力になりますから……!!
レイン :
俺たちの力になりてーだと?
シズ :
その言い方だと悪魔チームの仲間になりたがってるみたいに……
フェネッカ :
こう見えても社会人ですのでガンガン頼ってくださいっ!!
レイン :
――[調子:チョーシ]コイてるあの連中は、この手できっちり[カ:・][タ:・]にはめなきゃ気が済まねーんだよ。
フェネッカ :
あ、ならわたしに任せてください!型にはめるの得意ですから♪
レイン :
……へぇ。見かけによらねーじゃねーか。
フェネッカ :
エヘヘ~♪ 最近は焼き加減にもすごくこだわってるんです~♪
シルヴィア :
ヤ、ヤキの入れ方……!?優しそうな顔してるのに……
フェネッカ :
(クッキー作りが好きなの、そんな意外かなぁ?)
ルーシー :
どくのだ!ダチを傷つけるやつらはルーシーが[一撃:ワンパン]で沈めるのだ!
フェネッカ :
ワ、ワンパンですか!わたし最近ハマってるので、ぜんぜん任せてくださいっ!!
ルーシー :
お姉さんもしかしてめちゃくちゃ強いのだ……!?
フェネッカ :
この間も真っ二つにしてやっつけてやりました♡
ミラ :
残酷すぎるわよ!とんだ戦闘狂だわ……!!
フェネッカ :
(残業明けで疲れてるときは、二つ折りのパスタをフライパンに放り込んでぱっと作れるワンパンパスタが楽なんだよね)
レイン :
……面白ェ。なら存分に俺らの味方として暴れ回ってもらおうじゃねーか。
ルカ :
今日こそ悪魔の連中全員まとめてわからせたらーーーーーーい!!!
リルテット :
はいストップ。落ち着いてー。
ルカ :
ここは今から戦場です!!危険ですので無関係の人は避難していてください!!
リルテット :
いや戦場じゃなくて路上だから。すみっこ寄って寄ってー。
チュンメイ :
ホワッチャーーーーー!!!血が騒ぐアル!!早く闘らせてほしいアル!!
リルテット :
ほわっちゃーじゃなくて。持ち物検査するから手上げて。
サマーソウル :
所持品検査もまた夏!!さあ存分に見るがいい!!この上腕三頭筋の隆起っぷりを!!
リルテット :
あなたはどうあがいても隠す場所ないから別に上げなくていい。
トラブルなら一回ちゃんと理由話してみて。力になれるかもしれないし。
ルカ :
なんと!!<[AC0D0D][屈王出美瑠:クッキングデビル][FFFFFF]>打倒のためあなたの力を貸してくれると!?
リルテット :
違う。そういう物理的な意味じゃなくて……
たとえばケンカのきっかけとか、どんなことに怒ってるとか、そういうのわかれば冷静に――
ルカ :
きっかけ……きっかけ……?
うおおおおおおおお!!!思い出したらあらためて怒りのボルテージが最高潮に達しましたぁーーー!!
ヴィレータ :
めらめらめら……<[AC0D0D]ハンバーグ[FFFFFF]>にしてあげます。
マール :
あははは、よくわかんないけどめらめらめらーーー!!!
リルテット :
油そそいじゃった……
ルカ :
さあ、全面闘争です!!<[AC0D0D]覚悟[FFFFFF]>キメていきますよー!
リルテット :
ま、まってってば!!私がなんとかするから落ち着いて――
ルカ :
お気遣いありがとうございます!!ですが今やおまわりさんは私たちの大切な<[AC0D0D]ダチ[FFFFFF]>です!!
一人では闘わせません!!ダチの背中は私たちが守ったらーーーーーい!!
レイン :
――準備できたかよクソ天使?こっちはつえーのが一人増えたぜ?
ルカ :
――レイ~~ン?頼もしい仲間が加わった私たちに勝てると思うなよー!?
フェネッカ :
……あれぇ? なんか余計に事態が悪化してるような……?
リルテット :
もうめんどくさいから、とりあえず戦おっか……
シズ :
…………
つ、ついに始まってしまった悲劇の戦いと、その渦中に飲まれてしまったふたりの運命やいかにー!
フェネッカ&リルテット :
(がんばって実況盛り上げようとしてくれてる……!)
:
9
レイン :
オラァアアアア!!!そんなモンかぁあああ!?
ルカ :
負けーーーーん!!!ぬぉりゃあああああ!!!
リルテット :
まてまてー。
フェネッカ :
ひぇーーん!?お尻ぺちぺち当たってますからー!
リルテット :
くやしかったらフェネッカもやり返していいよ。
フェネッカ :
じゃなくって、わたしたちが戦っても意味ないですってば~!
リルテット :
あはは、ごめん。フェネッカとたたかうの久しぶりで、つい……
フェネッカ :
どうしましょっかこれ……どんどん収拾がつかない感じに……
リルテット :
もうめんどくさいし、どっちか全滅するまでどっかでお茶でもする?
シズ :
だ、だめですよ! ふたりとも思い出してください!
この世界では、社会人スキルがそのまま力に繋がるんですよ!
リルテット :
でもヤンキー同士のケンカってメンツが命だから、基本ケリつくまで止まらないし。
シズ :
ヤンキーの解像度が高い!
フェネッカ :
あの……わたしいいコト思いついちゃったかもです!!
ルカ :
――ぬ!?フェネッカさんとリルテットさんに突然連れて来られたここは……美味しいと評判のごはん屋さん!?
レイン :
……おい。ケンカの最中にこんなトコ連れてきてなんのつもりだテメーら。
フェネッカ :
はぁ、はぁ……ぜぇ、ぜぇ……よ、ようやく全員……連れてこれましたね……!
リルテット :
はぁ、はぁ……っていうか……ここまで引きずられてくる時点でみんなけっこう冷静じゃん……!
シズ :
いえ、このエリアにおいて大切なのは、永らく続く二つの種族の争いを止めること……!
フェネッカ :
はい、そのためには――さあ、みなさーん!!お手元のグラスをもって――
フェネッカ&リルテット :
せぇ~の……かんぱーーーーいっ!!
リルテット :
……ねぇフェネッカ。これほんとにうまくいく?
フェネッカ :
一緒においしいものを囲みながらちゃんとお話すれば、解消できる不満や怒りもあると思うんです!
シズ :
険悪なチーム同士の懇親と話し合いをかねた食事会の企画――社会人っぽくていいと思います!
悪魔たち :
テメェら……さっきから[眼力:ガン]くれてんじゃねーゾ……!?
天使たち :
あぁ……?ひしゃげた[握り飯:おにぎり]みてーにしてやろーか……!?
リルテット :
ぜんぜん和んでないけど。
フェネッカ :
無理やり連れてきましたもんね……うぅ、今さら不安に……
リルテット :
ううん、がんばろ。仕事だし、それに――
……仲の悪い組織同士を仲直りさせることにかけては、私たちベテランでしょ。
フェネッカ :
――はいっ♪ わたしは向こうのテーブル行ってきますっ!そっちも打ち合わせ通りにっ!
ヴィレータ :
じ~~~~~~~……
ルーシー :
のだ~~~~~~……
リルテット :
はい失礼しまーす。ほら、ふたりとも飲み物なくなってるよ。
(食事の席もさっきと同じ……出入り口からいちばん近い下座に私は座りつつ……)
おかわりいる?ほら、飲んで飲んでー。
ルーシー :
ジュースおいしいのだ~~♪
ヴィレータ :
ありがとうございます……おっとっと。
シズ :
飲み物を注ぐ時はラベルを上に……かつ、注ぎ口はコップにつけないよう慎重に――いい感じです、リルテットさん!
リルテット :
やった。
レイン&ルカ :
…………
フェネッカ :
あの、おふたりのお料理とりわけちゃっていいですか?苦手なものあれば言ってください♪
レイン :
……オメー、そこそこ盛り付けキレイじゃねぇか。
ルカ :
む、フェネッカさんの飲み物もう空じゃないですか!!さあ、コップを出してください!!
フェネッカ :
わぁ、ありがとうございます~♪
シズ :
――率先して気配りをしつつ、目上の人から飲み物を注いでもらう際はコップを両手で持ち、相手が注ぎやすいよう軽く傾ける……見事ですね!
フェネッカ :
エヘヘ、やりました~♪リルテットさん、この調子で場を温めつつ――!!
リルテット :
うん、どんどん社会人パワー、溜めていこ。
:
10
そうして、フェネッカとリルテットは――
フェネッカ :
あ、あらためましてかんぱ~~い!!
ミラ :
……あんたのグラス、ホバー移動式なの?
シズ :
目上の人より低い位置から乾杯しようとするあまり、グラスが地を這う動きを……!!
:
順調に社会人パワーを溜めつつ、場の空気をなごませていき――
リルテット :
自分より力ある人に襲われた時は、相手の小指つかんで変な方向にえいってやるのがおすすめ。
リーゼロッテ :
ありがとう……ためして……みる……
クマロン :
いだだだだだ!!!リーゼロッテに変なことを教えないでくれーーー!!
リルテット :
ただの護身術だよ。
:
そして、ついに――!
フェネッカ :
社会人パワーマックスです!今です、リルテットさん!
リルテット :
うん、フェネッカ。さあ、私たちの社会人パワーを――
フェネッカ&リルテット :
受けてみろぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
ルカ :
ふっ飛ばされてサッパリしました!意地張ってごめんなレイン!!
レイン :
うるせェ! 肩組むなクソ天使!!
フェネッカ :
ふぅ……無事に仲直りできましたね♪
シズ :
それはいいんですけど、なんで最後お店ごと吹き飛ばしちゃったんですか!?
リルテット :
せっかくパワー溜まったから、ちょっと放ってみようかなって……
フェネッカ :
そういえば……ルカさんとレインさんたちはなんでケンカしてたんです?
エルガー :
くちょらーい。
ルカ :
あ~~!!?おかえりエルガ~~♪どこ行ってたんだよ~~!!
ガナード :
私が保護していました。……お二人とも気は済みましたか?
エルガーに習い事をさせるとか、させないとか――そんな理由で何百年も喧嘩するなんて……
ルカ :
だ、だってぇ~~!!やっぱ水泳とかくらいは習わせといた方がいざって時に~!
レイン :
だァから、習い事なんざエルガー本人が興味もったらやらせりゃいいんだよ……!!
ルカ :
あれ? エルガー、それどっから持ってきたの?
エルガー :
らい?
フェネッカ :
わぁ~……きれいな鏡……!
リルテット :
っていうか……アレってもしかして――
フェネッカ :
――というワケで!!観てくれてるみなさーん!!
リルテット :
<[AC0D0D]盈月の水鏡[FFFFFF]>無事ゲット~。
シズ :
さっそく、竜神様の祠にかざしてみましょう!!
リルテット :
えっと、こう?それー。
フェネッカ :
……ひ、開きましたね!このいちばん奥に竜神様が……
シズ :
日照りに苦しむ人々のため、がんばって説得しにいきましょう!
リルテット :
でも……すごい広いね。やみくもに歩いたら、ぜったい迷子になるよ。
フェネッカ :
……あ! たしかこの水鏡って、竜神様とお話するための道具なんでしたよね?
リルテット :
なるほど、これで竜神様と連絡とればいいのかな?えいえい。
なんか文字出てきた。『宛先』『件名』『本文』……なにこれ?
フェネッカ :
あ……これ<[AC0D0D]メール[FFFFFF]>の画面!潜入捜査のときちょっとだけ習ったやつです!
リルテット :
ああ、手紙が一瞬でびゅーんって届くやつだっけ?
フェネッカ :
あ、説明も書いてある……『蛮勇なる者たちよ。我の[閨:ねや]まで至りたくば、この迷宮を突破せよ』
リルテット :
『――この水鏡を通して、汝らが我と相まみえるに相応しい品格の持ち主であると示せれば、道は開かれよう』――
シズ :
その水鏡は、竜神様と文字を使って交信するための道具――
――つまり竜神様の元へ行くには、<[AC0D0D]礼儀正しいメール[FFFFFF]>を駆使して信頼を勝ち得なければなりません!
フェネッカ :
な、なるほど……!なんか今っぽいですねっ!!
リルテット :
メールって雰囲気の世界観じゃなくない!?
:
11
フェネッカ :
えっと……メールってどう書けばいいんでしたっけ……?
リルテット :
あんまり覚えてないけど……とりあえず宛先から?
フェネッカ :
そうですね!『竜神様様』っと……
リルテット :
え、様って二個つけるの?
フェネッカ :
だって名前が『竜神様』だから、そのあと『様』つけないと呼び捨てになっちゃいません?
リルテット :
……いや、これたぶん引っ掛け。竜神様はきっとおっきいから、個人じゃなくて実質団体だよ。
フェネッカ :
さすがリルテットさん!団体宛なら敬称は『様』じゃなくて『御中』ですね!!
リルテット :
よし、次は件名ね。『さっさと出てきて』と……
フェネッカ :
ちょぉお!?初対面の人……人? なのでもうちょい丁寧にいきましょう!
リルテット :
それもそうだね。どんな感じがいいかな?
フェネッカ :
……『お初にお目にかかります。寒さの中にも春の気配を感じる頃となりまして、お忙しい日々をお過ごしのことと存じますが、このたびわたしたちはとても大切な用事が』……
シズ :
!?
リルテット :
ちょっと長い気がするけど丁寧な件名だと思う。フェネッカはすごいね。
フェネッカ :
エヘヘ~……♪次は本文ですねっ!
リルテット :
礼節はこれでバッチリだから、本文はラフめにいってみよう。バランスとる感じで。
シズ :
え、ちょ……
リルテット :
『やっほー元気?すっごい会いたいから~、住所教えて~お願い』と……
フェネッカ :
あ、可愛い絵文字とかもあるみたいですよ!♡とか使ってみましょう!
シズ :
ああ……あああああああ……!!
トシン島のみんな :
だぁ~~~~はははははは!!シガーファングとソルトホーンの新卒ハンパねえ!!
ジェイク :
…………
レイモンド :
ン~~~リルテットォ!!怪文書が順調にできあがっていってるぞォ!?
S・H団員たち :
あーっはっはっは!!おなか! おなか痛い……!!
C・F構成員たち :
相変わらずいろいろ違ぇけどもう可愛いからヨシ!!
カルマ :
クク……聞いての通り、こっちは大ウケだポンコツ精霊。引き続きバカやってくれってあいつらに伝えとけ。
シズ :
あああああ……送信しちゃった……
リルテット :
ふぅ。普通に楽勝だったね。
フェネッカ :
あ、さっそく返信が――
:
オラァァアアアこの臓物どもォ!!ンだ今のクソ文面はァ!?言語センスを粉々にくだいて犬の餌にふりかけてきたのかぁ!?
フェネッカ :
ひえええ!?すっごい怒ってますぅ!?
リルテット :
ただのメールなのに、怒声まで聞こえてくる気が……
:
まず宛先の『竜神様ウォンチュー』ってなんだコンコンチキがぁ!違う上に違うじゃねぇかあ!!!
フェネッカ :
はぅあ!?『御中』打ち間違えてた!?
:
そこは『様』でいいわぁ!!あと件名がなげぇ!!枠からはみ出てんじゃねぇか!!
本文はなんかもう論外だ!!特定の人が騙されかねん文面になっとるわ!!
リルテット :
特定の人ってなに……
:
てめぇら二人ともやり直しだ!!野良犬の尻より出でしアレにも劣る貴様らの社会常識を徹底的にこねくり回してくれる!
リルテット :
このメールの方がよっぽど常識ないでしょ!!
フェネッカ :
きゃーーー!?敵まで出てきましたぁー!?
シズ :
は、早くメールの書き方身につけて、竜神様のところまで辿り着かないとー!!
:
12
そうしてフェネッカとリルテットは敵の猛攻をかいくぐりながら、竜神様の鬼指導を受け――
フェネッカ :
『連日の日照りによって多くの人々が嘆いております。つきましては添付の資料を』……
:
また打ち間違えだ、たわけがぁ![屍霊:しりょう]を送ってくんじゃねぇぇ!!
リルテット :
『これは不幸のメールです。居場所を書いて返信しないと足の小指をタンスの角に』……
:
ンだ、そのしょっぱい不幸はぁ!!あとおまわりさんが堂々と不正を働くなこのスットコがぁ!!
少しずつメールの作法を学んでいき、そして――
フェネッカ :
件名『先日の不敬行為のお詫び』本文『アメアメ村守り神・竜神様。いつもお世話になっております。トシン島・シガーファング団員フェネッカ・クロッカと申します』
『先日、村人が誤って竜神様の祠を足蹴にした件につきまして、大変ご迷惑をおかけしております』
リルテット :
『早急に祠の清掃をおこない、また今後二度とこのようなことを起こさないため、村人たちには竜神様への感謝と敬意を忘れないよう呼びかけていく所存です』
『何卒ご容赦くださいますようお願い申し上げます。トシン島・ソルトホーン団員リルテット・ミッケ』
フェネッカ&リルテット :
――そうしーーーん!!!
シズ :
件名は要件をわかりやすく!本文ではまず主旨を端的に、かつ率直に記しつつ、反省の意と再発防止の対策を示す――
おめでとうございます!!ふたりとも完璧です♪
??? :
ファッファッファッファー!!
リルテット :
向こうからきちゃった……
フェネッカ :
でっかいぃぃ……!めめめ、名刺交換はいったいどうやれば……!?
竜神様 :
よ~ぉやく少しはマシなメールが送れたじゃねぇかぁ!!最初の名乗りと最後の署名が食い違ってんのは減点だがなぁ!
リルテット :
あ……ふたりで協力して書いたメールだったからつい……
竜神様 :
本番ならばアウトだが、成長に免じ勘弁してやろう!
リルテット :
で、日照り止めてくれるの?
フェネッカ :
メールを丁寧に書いても口調がいつも通りじゃ意味ないかもー!
竜神様 :
あァ? 構わん構わん!はい止めぴ~。
フェネッカ&リルテット :
軽い!!
竜神様 :
こんなモンただのイベントだァ!!条件満たしゃ馬でも二足歩行で白米を喰らうわ!!
シズ :
NPCまで世界観を壊さないでくださいよぉ~……
竜神様 :
――さて。ここまで貴様らは様々な社会人スキルを駆使して進んできただろうが、感想はあるか?
リルテット :
正直、たまにめんどくさいなって思いながらやってた。
フェネッカ :
……わたしは、自分や周りの人達が笑顔で気持ちよく過ごせるよう、色んなマナーを覚えましたけど……
由来とか意味とかよくわからないやつもあって、たまにモヤ~ってしちゃいます……
竜神様 :
ファッファッファ!!それで構わんッ!!
覚えておくがいい!!あんなモンはその名の通りただの<[AC0D0D]スキル[FFFFFF]>だ!!
すなわち<[AC0D0D]手段[FFFFFF]>だ!!厳しくつらい世の中を生き抜き戦うための武器にすぎん!
使えれば得をする!持ってりゃ心強い!
まぁ、武器を振るうに足る確かな<[AC0D0D][志:こころざし][FFFFFF]>が伴ってりゃ、それに越したことはないがなぁ。ファーッファッファッファー!!
リルテット :
……了解。いちおう覚えとく。
フェネッカ :
――胸にしっかり刻んでおきます!ぺこり!!!
リルテット :
……フェネッカのおじぎで竜神様、埋まっちゃったね。
シズ :
日常挨拶などで用いる十五度程度の<[AC0D0D]会釈[FFFFFF]>でも、上司やお客さんに対して使う三十度程度の<[AC0D0D]敬礼[FFFFFF]>でもなく、最上級の敬意や謝意をあらわす四十五度の<[AC0D0D]最敬礼[FFFFFF]>頭突き……!
フェネッカ :
す、すみませぇ~~ん!!社会人パワーすごいぃ……
シズ :
――あ、気づいたらもう、夕方になっちゃってましたね。
リルテット :
ほんと?じゃあこのエリアもクリアしてキリもいいし、今日は終わろっか。
フェネッカ :
ですねっ! 今日もいっしょに定時上がりのお茶しましょう♪
リルテット :
あれ、なんか社会人パワー溜まった。
シズ :
やるべき仕事をしっかりこなし、定時でしっかり終わらせる――
これもまた立派な社会人スキルということみたいですね!!
フェネッカ :
――!それじゃあせっかくなので……♪
リルテット :
うん。じゃあ、画面の前の人たちもいっしょに。せーの――
フェネッカ&リルテット :
定時だーーー!!
:
13
フェネッカ :
まさかサイバーフィールドにも喫茶店があるなんて……!
リルテット :
……あ、すごい。ちゃんとカフェオレの味する……
フェネッカ :
あくまで味だけでお腹はふくれないらしいですけど、それでもすごいですよね!
――あの、シズさん、カルマさん。お願いがあるんですけどぉ……
リルテット :
まだちょっとだけ、ふたりでサイバーフィールド使っていい?
カルマ :
好きにしろ。中継も止まってる。ただしサイバーフィールド内じゃ今んトコ栄養補給はできねえぞ。
シズ :
なので帰りたくなったときは私を呼んでくださいね。待機してますので!
フェネッカ :
サイバーフィールドの中でも定時後のお茶会なんて、素敵な思い出できちゃいました~♪
リルテット :
……でフェネッカ、なに悩んでるの?
顔見ればわかるよ。だからふたりっきりで話したかったんでしょ。
別に無理しなくていいよ。普通にお茶するだけでも――
フェネッカ :
――ついこの間、世界中が大変なことになっちゃったじゃないですか?
あの日もこうして定時で上がって。ふたりでお茶して。また明日って、お別れして……
リルテット :
……そのすぐ後だったね。わけわかんないまんま――
……何かに、飲み込まれて……
フェネッカ :
あのとき感じた恐怖も……それに――悔しさも。胸の中にべったり残ってて……
リルテット :
悔しさ?
フェネッカ :
わたしが就職先に、自警団を志望した理由――
……たくさんの人を守りたい。それがずっと、夢だったから。
リルテット :
……フェネッカのお父さんは、フェネッカと――フェネッカのお母さんを守って……亡くなったんだよね。
フェネッカ :
はい。わたしの自慢のお父さんで、わたしの憧れのヒーローです……♪
だからトシン島のソルトホーンに履歴書を送って……でも、リルテットさんの履歴書とあべこべになっちゃって……
リルテット :
――だね。それで私が自警団になっちゃって、フェネッカはギャングになって。
フェネッカ :
出逢った頃のリルテットさんは、今よりちょっとツンツンしてて……
でも本当は刑事のお父さんのことが大好きな、正義感にあふれた素敵で、かっこいい人で。
だから、履歴書が入れ替わったのがリルテットさんでよかったって、ほんとに思ってます。
リルテット :
そ、そんなの……わ、私だって……
だってパパと仲直りできたのも……こんな私に、仲間や友だちができたのだって――
……フェネッカが私を変えてくれたからって。ずっと……思ってる。
フェネッカ :
はい、わたしもです。だから、世界中が大変なことになったあの日――島の人たちのことも、シガーファングのみんなのことも。
――リルテットさんのことも。誰も守れなかった自分が、本当にみじめで、悔しかった。
リルテット :
それは……そんなの……私だっておんなじだよ……
人を守る仕事に就いてるのに……なんにも守れなかった、って……
今回の仕事だって、フェネッカと一緒じゃなかったらたぶん速攻で詰んでたし……
フェネッカ :
そんなのわたしもですっ!リルテットさんはいつだって冷静で、度胸もあって……すごいなって思ってます!
リルテット :
……それ私のせりふ。だって、フェネッカは人に優しくて、気配りもできて、周りを笑わせられる人で。
フェネッカ :
……今日、改めて思い知りました。やっぱりわたしたち、まだまだ未熟だなって……
リルテット :
だね。でもお互いちゃんと――お互いにないものをもってる。
フェネッカ :
わたしたち、まだまだぜんぜん半人前だけど、それでも――
リルテット :
ん。ふたりそろえば、たぶんギリギリ一人前。
フェネッカ :
す、すみません、急に変なこと話して……!お仕事で失敗しちゃうとついしんみりしちゃって……!!
リルテット :
いいよ、別に。私も実はちょっとへこんでた。
フェネッカ :
――ね。これからも、ふたりでがんばろうね。
リルテット :
ん。……じゃあそろそろ戻ろ。みんな心配してるかも。
カルマ :
――? なんだ、これは。
チッ……!応答しろポンコツ精霊!!おい――!!
フェネッカ :
これって……何事ですか……!?シズさん、シズさん……!?
リルテット :
あ……だめ……意識……が……
フェネ……ッカ……!!
フェネッカ :
リルテット……さん……!!
:
……………………
…………
……
フェネッカ :
う……うぅ~……頭いたいぃ~……
リルテット :
……うぅ……ここ、どこ……
フェネッカ :
え、えぇと――
リルテット :
あなた、は――
フェネッカ&リルテット :
誰ですか?……誰?
:
――後編へ続く――