1


ふぅ……


ふたりとも、かーっこいいー♪


ほうほうほう、素晴らしい――


その<[AC0D0D]装束[FFFFFF]>の力…… これほどまでに引き出すとは。


ふたりともキレキレのビシバシの ゴリゴリって感じで、 なんかすごかったわ!


(キレキレのビシバシの ゴリゴリ……!?)


これならどんな敵だって、 怖く! ナイ! わよね?


――<[FF9600]約束の地[FFFFFF]>での決戦から、 しばらくの時が経った。


飛行島のみんなの力を合わせ、 私たちはついに<[FF9600]闇の王[FFFFFF]>の 討伐を果たした。


けれど――


<HERO_NAME>が手にした <[FF9600]闇の王[FFFFFF]>の力の大半は、 闇の道化――エピタフによって 奪われてしまった。


この世界を脅かすであろう 彼を見つけ出し、 そして止めるため――


私たちは、今も旅を続けている。


……ありがとうございます、 バロンさん。


<[AC0D0D]始祖のルーン[FFFFFF]>を一度 解体したことで、<約束の地>の 恩恵も失われ――


<HERO_NAME>も力を 奪われてしまって、 とても不安でしたが……


エピタフがいつ来るか わかんない以上、 <[AC0D0D]始祖のルーン[FFFFFF]>も<[AC0D0D]約束の地[FFFFFF]>も そのまんまにはして おけないものね……


うん。 でも、バロンさんが用意してくれた この装備の力があれば……!


――どんな強敵とだって、戦える。


<[AC0D0D]約束の地[FFFFFF]>から、 失われし古代の遺物を 発見できたのは僥倖だった。


フムニール殿の知見を頼りに、 現代の技術でどうにか形にした その<[AC0D0D]装束[FFFFFF]>だが――


まさか、ここまで使いこなすとは。


はい。信じられないほど…… 私の体に馴染んでいます。


全身のソウルが、 余すことなく自身の力へと 変換されていくのを感じます。


まだ試作品の域を出ない代物です。 <[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>を討った時の 二人の力には遠く及びませんが――


きっと、これからの戦いの 助けになってくれるでしょう。


――ありがとう、バロン。


しかし事前に言った通り…… 未知の遺物を使っている以上、 今後お前たちにどのような影響を もたらすのかはわからない。


扱いはくれぐれも慎重にな。


はい。あとは…… 今フムニールさんたちが 試行錯誤してくれている <[AC0D0D]あれ[FFFFFF]>が成功すれば――


うむ、心強いですな。


とはいえ、成功するかは 五分と五分、と彼は 言っておりましたが……


トァーーーーーー!!!


わかんないコトを心配してたって 仕方ないわ。信じて待ちましょ?


うん――キャトラの言うとおりだね。


ン! じゃあ新しいおべべの お披露目も済んだし、 飛行島に帰るわよ♪


2


たっだいま~!


あら。みんな、お帰りなさい♪


ただいま♪ 手を洗ったら、 夕飯の準備お手伝いしますね♪


ええ、お願いね♪ あ、そうそう――


みんなにお手紙が届いてたわ。 天候の関係で、だいぶ配達が遅れた みたいなんだけど……はい、これ。


ありがとうございます。えぇと――


エレノアからね。なんだって?


時間ができたから、 近いうちに飛行島に来るって♪ こっちの手紙は――


――オスクロルから?


なんだろ? ギルドの依頼の斡旋かな?


――これは――?


飛行島の皆様へ――


急ぎ、皆様にお伝えしたい ことがあり、ご連絡させて いただきました。


――とある海上に、 突如として[島:・]が出現しました。


火山活動による隆起でもなく、 荒天の島ケロスのように 存在そのものを 偽装されていたわけでもなく――


文字通り――海の上に 島が[出:・][現:・]したのです。


前代未聞の事態に際し、 ギルドは調査隊を結成。 島へと送り込むようです。


性急過ぎると反対したのですが、 聞き入れてはもらえず――


また不甲斐ないことに、 私自身もすぐには 動けない状況です。


私はこの事態の原因を、 あの<[FF9600]闇の王[FFFFFF]>が残した影響――


――ないし、<[FF9600]闇の王[FFFFFF]>の力を奪い 行方を眩ませたエピタフなる者が、 何らかの形で関わっている 可能性があると考えています。


取り急ぎ、状況を ご連絡させていただきました。


もし向かわれるのであれば―― どうか、お気をつけて。


3


島が……現れた、ですって??


はい。一晩で、 海の真ん中に突然、にょきっと。


……島というのは、一晩で 生えてくるものなのか?


生えてきませんよ、普通は。 草やキノコじゃないんですから。


キノコの話はしていないぞ。


誰もしてないわよ…… ……それで、その、エニグマ島…… だっけ?


はい。暫定的な呼称ですけど。


その調査隊の一員として、 あたしたちを推薦したいって?


はい。島が発見されてすぐ、 ギルドが腕利きの冒険家を集め、 第一次調査隊を 結成したんですが――


調査に向かった全員が…… 消息を絶ったそうです。


よほど強力な魔物でも 潜んでいるのか?


不明です。なにせ、 発見の経緯からして不明点が 多すぎる場所ですので……


それでですね。ぜひ、 第二次調査隊のメンバーとして お二人を推薦したいなー、と。


なぜオレたちなんだ?


お二人とも、危険な依頼を ザクザクこなしてて、界隈じゃ 結構有名なんですよ?


それに――


謎と危険に満ちた不可思議な島…… 誰も知らない未踏の地を ゆくロマン――


冒険家魂、燃えませんか!?


えぇっと、ロマンかぁ~……


なぜ、栗の話をする?


マロンじゃないです。


……? バロンがどうした?


……って、すみません! 突然困りますよね。 無理強いはしないので――


ううん、受ける。


オレもだ。


そんな二つ返事で!? 私から言っておいてなんですが 危険度MAXですよ!?


ロマンとかは、 あんまよくわかんないけど―― 助けを必要としてる人が いるかもしれない。 なら、行かなくっちゃ。


着いたな。ムキムキ島に。


かすってもいないわよ……


他の冒険家も大勢いるな。


そりゃね。 結構な規模だった第一次調査隊が、 そろって行方不明なんだから。


あたしたち第二次調査隊の使命は、 このエニグマ島の調査。 そして、もう一つは――


ああ、この島の調査だな。


あんたはオウムか! 生存者の救出でしょーが!!


大丈夫だ。思い出した。


まったく…… ――この依頼、絶対 成功させるわよ……!


……セレナ。


無理はするなよ。[あ:・][れ:・][以:・][来:・]―― お前は、逸っているように見える。


……ん、気をつける。 っても、そういうあんたも人のこと 言えないと思うけど?


――――


――ぅ――


……私は? ここは……?


4


突如として出現した謎の島―― エニグマ島に集結した冒険家たちは ギルド主導のもと、 いくつかのグループに分けられ――


一斉に、調査が開始された――


静かだな。今のところは。


うん。魔物も全然いないし……


先行しすぎるな。 何が起きるかわからん。


おいおい、ビビってるのかよ?


ケツの青いガキが 偉そうに指図するんじゃねえよ。


オレのケツは青いのか?


いや、知らないけど……


俺らの仲間は、 小娘二人にアホ一人か。 凄腕だと聞いていたが…… 噂はしょせん噂だったようだな。


誰が小娘よ。


誰が小娘だ。


あなたは違うんじゃ……


まあいい。 俺らは好きにやらせてもらうぜ。


な、待ちなさいってば! 何のためのパーティよ!?


そ、そーですよ!! 第一次調査隊の人たち、 誰も帰ってきてないしょや!?


見ろよ、俺の愛剣を! 六つの希少ルーンを組み込んだ 特製の魔法剣――


こいつで倒せねえ魔物なんざ いるわけねえ!


いや…… そういう問題じゃなくって……!


ご心配痛み入るがね、 お前らや第一次の連中とは 年季が違うのさ!


この島を攻略すりゃあ、 俺らの名前も売れる。 足手まといは邪魔だ。


冒険するのが怖ぇなら、 冒険家は廃業するんだな。あばよ!


ちょっと、待ちなさいってば……!


行ってしまったな。


うぅ、困ったさんたちと 当たっちゃいましたねぇ。 実績を積んだ冒険家の中には ああいう人も多いですけど……


はぁ、いつかの自分を 見てるみたいでへこむ……


???


こっちの話。……っと、 あらためて自己紹介しとこっか。 あたしはセレナ。 セレナ・アルカマル。


ヴァイス・グリーガーだ。


[0F7319]ミーシア・ヴェルテ[FFFFFF]です! セレナさんとヴァイスさんのこと、 わたし知ってますよ!


さっきの人たちも言ってましたけど 近ごろよくギルドで 噂を聞きますっ!


おっかない依頼がんがんこなして、 たくさんの人たちの助けになってる 新進気鋭の冒険家だって!


すごい奴らなんだな。


あたしたちのことだっての……


そんな凄い人たちとパーティ組めて 内心やりー! とか思っちゃいました!


そ、そんな大したこと ないってば……


……それよりミーシアはどうする? 第一次の人たちが心配だし あたしとヴァイスはこのまま 調査を続けようと思うんだけど――


もち同行します!


そうか、助かる。 よろしく頼む、バッカス。


ミーシアです!


よろしく。力を合わせて、 みんなで無事に――


誰か……そこに、いるんですか?


! その声は――


女の子……?


……生徒会長?


生徒会長も依頼を受けていたのか。 さっきは見当たらなかったが――


あなた、は……


私が誰なのか―― ご存知、なんですか……?


5


――記憶がない?


……はい。気づいたときには この島にいて―― けれど、何も憶えていなくて。


生徒会長。本当にオレのことも わからないのか?


セイト、カイチョウ…… それが私の名前なんですか?


ああ、そうだ。


適当言わないの。 あんたの名前は――


それでですね! グラハムさんとエマさんったら――


ふふ、相変わらず みんな元気そうでよかった♪


やっほ~♪


あ、セレナさん、ヴァイスさん! いらっしゃい♪


邪魔をする。 生徒会長も来ていたんだな。


ヴァイスさん、こんにちは! えぇと――


生徒会長――ってことは、 もしかしてあんたがエレノア?


は、はい! よろしくお願いします!


あたしはセレナ。 ヴァイスとは腐れ縁でさ、 あんたの話もちょっと聞いてた。


――会えて嬉しいわ。 よろしくね、エレノア♪


なんかヴァイスったらさー、 あんたは未来から来ただとか、 よくわかんないこと言っててさー?


それは、その……


本当だぞ?


ふふ、本当ですよ?


あはは、だよねぇ。 って、嘘ーーー!?!?


アイリスとエレノアから、 少しだけ話を聞いた。


この世界を破滅から救うため、 エレノアは未来から やってきたっていうこと――


未来のアイリスから、 <[AC0D0D]光の王[FFFFFF]>の力を託されたこと――


苦しい戦いの果てに、 この世界の未来を守り通した、 っていうこと――


うひゃあ……嘘みたい……


……あんたは、この世界を守った すごい人なんだね。


わ、私の力じゃありません! 私を支えてくれた人、 私を守ってくれた人、 私に託してくれた人――


たくさんの人に助けられたから、 私は使命を果たすことが できたんです。


……それでも、すごいわよ。


え?


だって、あんたはさ―― 自分がやるべきことを、 きちんと立派に、最後まで まっとうしたんだから。


あの、セレナさん……?


……はっ!? ご、ごめん! ちょっとぼーっとしてた……!


――――


あの……?


あんたの名前はエレノア。 一応、そこのそいつと同じ学園に 通ってるんだけど……


学園での出来事を話してみよう。 何か思い出すかもしれない。


は、はい。お願いします……!


………… この間、学食に追加された 新しいメニューがうまかった。


がく……しょく……?


だが、何を食べたか忘れた。 生徒会長は憶えてないか?


あんたが忘れてどーする!


結局、だめでしたねぇ……


力になれずすまない。


いえ、そんな……


第一次調査隊の中にエレノアさんの 名前はありませんでした。 いよいよ謎めいてきましたね……


……ひとまず、いったん戻って ギルドに保護してもらいましょうか。


あの――


私も―― 連れていってもらえませんか?


なに?


自分でもよくわからないんですが、 胸騒ぎのようなものを…… 感じているんです。


私には、何か…… ここでやらなければならないことが ある気がしていて……


……そりゃあまあ、 何かしら目的があって、 あんたはこの島に 来てたんだろうけど……


お願いです。 私も同行させてください。


だが、ここは危険だ。 何人もの冒険家が、すでに 行方知れずになっている。


あんたの記憶喪失だって ただ事じゃないんだし…… 今は安全な所にいた方がいいわよ。 ……ね?


ですが……


状況は、あんまよく わからないですけど――


『生き残るためには 偶然を信じるな』って、 師匠からよく言われてました。


物事には必ずなんらかの 繋がりがある。何か妙だと思ったら まず状況を疑えって。


……たしかに、こんな島が どこからともなく現れて、 しかもそこでエレノアが 記憶を失くしてて――


それがぜんぶ偶然で、 何ひとつ無関係――なんて、 言い切れないかもだけど……


つまりこの島を調べれば、 生徒会長が記憶を失くした原因が わかるかもしれない、ということか。


あくまで可能性がある、 っていうだけですが……


ならこの島を調べるのは、 あたしたちに任せてさ……?


……ご迷惑はかけません。 自分の身は自分で守ります。


でも、それでこれ以上 あんたの身に何かあったら――


……これから先、 何が起こるかわからん。 生徒会長も、警戒は 怠らないようにしてくれ。


……! はい!


ちょっとヴァイス!?


放っておいても、 生徒会長は一人で行くぞ。


なら、オレたちと行動した方が まだ安全だ。それに――


感情は、理屈では制しきれない。 それはお前自身、 よくわかってるはずだろう?


~~~~……! まったくもう……!


はらはら……


わかったわよ! ただし絶対 あたしたちのそばから離れない事! いいわね、エレノア!?


はい……!


6


したっけ、 気とりなおしていきましょう!


……申し訳ありません。 無理を言ってしまって。


もういいって。 この状況で、一番不安なのは あんたなんだから。


では進もう。いくぞ、みんな。


……なまら不思議な場所ですね。


そうね。鬱蒼としてて、 なんだか不気味で、 変な存在感があって――


こんな島が一晩で現れるとか、 どんなトンデモだよって 感じですよね……


ミーシアは、なぜ この依頼を受けたんだ?


…………


――実は、第一次調査隊の中に わたしの相棒がいまして。


幼馴染なんです。 一緒に第一次の調査隊として 参加するはずだったんですけど、 わたしだけ当日になって お腹壊しちゃって……あはは。


だからお前は、第二次調査隊に 立候補したのか。


……心配、ですね。


お、大げさですよぅ! なんもですって。 あの子、なまら強いですし……


――大丈夫っ!!


あんたの幼馴染も、 他の人たちのことだって 心配する必要なんてないわ!


なんたって今回のパーティには―― この天才美少女セレナ様が いるんだから! あたしにできないことなんて 何にもないっての!


…………


……ってね……うん……


天才美少女……


わーー!! わざわざリピートしないでよ!!


ですよね! あの有名な 天才美少女がついてるんだから、 なんもですよね!!


やめて! もうこれ言っちゃうの クセになってんだからぁー!


……ミーシアさんのことを、 勇気づけてあげようと したんですね。


そんなんじゃないってばぁ!!


――――


なに笑ってんのよっ!


(……私はどうして、 この場所にいたんだろう?)


(私は、何か―― 大切なことを――)


(……っ! あたま、が――)


エレノア? 大丈夫……?


あ、だ、大丈夫です。 少し立ちくらみが――


ちょ、ちょい休憩しますか!?


いや―― そういうわけにもいかないようだ。


魔物の群れ……!


いくぞ。さっさと片付ける。


7


……すごい! ふたりとも噂以上の実力ですね!


長いこと、己の武を磨くこと以外 オレは何もしてこなかった。


――何もな。


なまらかっこいい!


そうかな……


ミーシアの戦い方も面白かった。 あの爆発は魔法か?


はい! 外套に仕込んだ爆薬を <[AC0D0D]旋風のルーン[FFFFFF]>でうま~く撒いて <[AC0D0D]発火のルーン[FFFFFF]>で 炸裂させるんですよ。


へぇ、器用ねぇ……


えっへん! わたしのオリジナル魔法です! 体術は不得手ですけど、 ソウルの量は生まれつき多いんで!


ルーン……自身のソウルを 込めることで、様々な作用を 及ぼす石か。


この時代のみんなの暮らしに 根付いているだけあって、 本当に便利な道具だな。


あはは、そんな大昔から 来た人みたいな~。


ああ。オレたちが生まれ育った <[AC0D0D]黒の王国[FFFFFF]>には、ルーンはまだ 存在しな――


せーーーい!!


……ふぁにをふる。いあいぞ。


(話がややこしくなるから あたしたちのことは 言・わ・な・い・の!)


<[AC0D0D]黒の王国[FFFFFF]>って…… 大昔にあったっていう? もうずぅ~~~っと前に 滅んだって、昔文献で――


そういう設定ね設定! コイツそういうのに 憧れる時期なの! ね~っ!?


設定……? そうか、オレは そういう設定だったのか。


なるほど、男の人って そういうところありますもんね~。


エレノア、大丈夫? 怪我したりとかしてない?


はい、平気です。すみません、 あまりお力になれなくて……


でもエレノアが未来のアイリスから <[AC0D0D]光の王[FFFFFF]>の力を 受け継いだんなら――


あんたがいてくれれば、 <[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>との決戦も心強いわね!


それは――


エレノアにはもう、<[AC0D0D]光の王[FFFFFF]>の 力は残されていないんです。


ですから今度は―― 私が責務を全うしないと。 <[AC0D0D]光の王[FFFFFF]>として……


……セレナさん? どうかしましたか?


――ううん、なんでもない! ……ほら、行きましょ!


8


……深い森ですね。


ああ。 気を抜いたら迷子になりそうだ。


あんたは年中 迷子になってるでしょ……


――――


どうした?


やっぱこの島ヘンです。 見てください、これ。


赤い花に、青い花だな。


綺麗ですね。でも、 このお花がどうしたんですか?


……赤い方はたしか、 湿った密林とかに咲く花よね…… でも、こっちの青い花は、 寒いとこでしか見たことない――


……はい、その通りです。


こんな風景……本来なら 存在するわけありません。


他にも、見たことない植物や 虫なんかもちらほらいますし…… 新種です、たぶん。


そういえば、 さっき戦った魔物の中にも 見慣れないヤツがいたな。


まるで……


別のどこかから、この島だけが 突然やってきたみたい……


……この島は、いったい 何なんでしょうか? 私は、どうしてこの場所で――


(――また、頭が……)


とにかく、今のところ わかっているのは――


とんでもない異常事態が起きてる、 ってことくらいなワケね……


もしかして、 あの<[AC0D0D]常闇の災厄[FFFFFF]>となにか 関係があるんでしょうか……


……常闇の、災厄?


少し前に起きた、 世界中が突然<[AC0D0D]闇[FFFFFF]>に包まれた 原因不明の大事件です。


<[AC0D0D]闇[FFFFFF]>……


世界中で大混乱を引き起こして、 今じゃそう呼ばれてるんですよ。


<[FF9600]常闇の災厄[FFFFFF]>―― <[FF9600]闇の王[FFFFFF]>の覚醒に伴う、 世界規模の大災厄。


アイリスたちが<[FF9600]闇の王[FFFFFF]>を 討ったことで、最悪の事態は どうにか免れた。


けれど、アイリスたちと同じ 旧い時代に生まれ、 悪しき<[FF9600]闇の王[FFFFFF]>を討つ使命を 持つはずのあたしたちは――


あの時、何も――できなかった。


セレナ。


考えすぎるな。 今は目の前の責任をこなそう。


……ん、わかってる。


9


ふぅ……魔物もだいぶ 強くなってきてますねぇ……


そうなのか?


そうなのよ。 ――でも、このくらいなら まだまだ余裕だけど。


第一次調査隊の連中も、 腕利きの冒険家揃いだったと 聞いている。


なら、この程度の敵に 全滅させられた――というのは 考えにくい。


これから先は、さらに おっかないってことですね…… けっぱります!


(皆さん、凄い力を持ってて…… 私だけが足手まといだ……)


(……生徒会長の剣技は、 相当以上の腕前だったはずだ)


(これも…… 記憶を失くした影響なのか?)


この辺りの土も採取して、と。 したっけ、先に進みましょう!


ミーシアさんっっ!!


エ、エレノアさん!?


(く―― 受け止めきれない……!!)


はぁぁあ――ッ!!


エレノア!!


怪我はないか、生徒会長!


だ、大丈夫です……どうにか。


うぇぇぇぇえん! 本当に、本当にごめんなさい! わたしのせいでぇ……!!


こちらこそごめんなさい…… セレナさんとヴァイスさんが いなかったら、きっと駄目でした。


もー……危なっかしいんだから! ほら、手当てするから怪我見せて!


<[AC0D0D]消毒のルーン[FFFFFF]>もありますから! ああぁ~……き、傷跡が残らないと いいんですがぁ……!


ご迷惑ばかりかけてしまって すみません。体が、とっさに 動いてしまって……


――少し安心したぞ。


記憶を失くしていようと、 お前は間違いなく オレが知ってる生徒会長だ。


学園でも、生徒会長は多くのものを 守ろうとしていた。 どんなに些細なものでも。


そのように、オレの目には 映っていた――と思う。


そ、そうなんですか……?


そうなんだ? 具体的には?


おそらくは……風紀とかだ。


あんたが忘れてない……?


い、いいから早く 手当てしてあげないとー!


(たくさんのものを、守ろうと…… 私が?)


(でも、こんな私に――いったい、 何ができたんだろう……?)


これは王を貫けなかった私の <[AC0D0D]我儘[FFFFFF]>。 私の願い。


……エレノア、お願い。 世界を救って……


す、すみません! 染みました!?


(今のは―― 誰の声だっただろう?)


10


ふんだ! どうよ、今の一発!?


重心がブレている。 拳に力が乗り切っていない。


はぁ!? 会心の一撃だったでしょ!?


いいからもう一度構えてみろ。 <[AC0D0D]武闘家[FFFFFF]>としての戦い方を 教えろと言ってきたのはお前だ。


ヴァイスさんって、 なまら強いですよね……


あの。どうしてヴァイスさんは、 そんなに強くなれたんですか?


強さだけが、 オレの全てだったからだ。


だからひたすら磨き続けた。 何者にも敗けないため。 それだけのために。


ストイック……!


……ヴァイスさんは、一回も誰かに 敗けたことがないんですか?


いや、敗北した。はるか昔―― どす黒い邪悪な力の前に、 完膚なきまでに。


そして再び目覚めたこの時代で、 オレはその相手を討ち果たした。 セレナや仲間たちと共に。


この時代……?


っていう設定ね……!


それでようやく、オレは因縁と―― そして、心に巣食った弱さと 決別できた。


今度こそ――もう二度と、 誰にも敗けないと自らに誓った。


だが――


ヴァイスさん……?


オレは――


ご、ごめんなさい! 話しにくいことなら 無理しないで――


オレは、何の話をしていたんだ?


……はいはい。お喋りおしまい! 早く先を急ぐわよー!


……セレナ。すまん。


……何がよ。


何でもない。先を急ごう。


11


だいぶ陽が傾いてきたわね……


そうですね…… お腹も減りましたし、 そろそろ野営の準備を――


あ! 皆さん、あれを見てください!


あれは……洞窟か?


少し寒いですけど、 ここなら休めそうですね。


焚き火の跡がある。 第一次調査隊が残したものか。


装備とかは残ってませんね…… 少なくとも、ここで何かが起きた、 という感じじゃあなさそうです。


なら、今晩の野営地は ここで決まり!


そうだな。ここなら 見張りの人数も最低限で済む。


火を起こして食事の準備をしよう。


エレノアもいるし、この先で 助けを待ってる人がいるってのも 考えると、食料や水はできるだけ 切り詰めておきたいわよね……


そうですねぇ…… 水源が近くにあるといいんですけど。


あの、私のことはどうか 気にしないでください……! 自分が食べるものは、 自分で調達しますから……


バカ。 こんなとこでお腹でも壊されたら、 逆に迷惑だってば。


暗くなる前に探索してみましょう? 運が良ければお肉がとれるかも!


気にするな。 頼ってくれていい。


そうよ。なりゆきとはいえ、 同じパーティの仲間でしょ? 変な遠慮はなし!


パーティメンバーなら いついかなる時も支え合い、 助け合いの精神ですとも!


……皆さん……


そうだ。 つまり、パーティタイムだ。


え?


オレは何の話をしているんだ。


知らないわよ……


よし、猪を仕留めたぞ。 これで今夜は肉が食える。


こっちには何かないかなぁ~?


なにこれ? 野生の、キャベツ……? なんで??


むぅ…… こっちも負けてられませんよ、 エレノアさん!


べ、別に勝負してるわけでは……


って、あーー!! 見てください! 山菜がなまらたくさん!


わぁ、本当ですね。 美味しそう……!


ありがたくごっそり いただいちゃいましょー!


エレノア、全部採ってはダメ。 新芽や小さいものは 残していくの。


……全部、採ったら……だめです。


へ?


あ……す、すみません。 私、何を言ってるんだろう……?


??? ……でも、たしかにですよね。 次に来る人たちのためにも、 ちゃんと残しておきましょう!


(また、頭の中にあの声…… ――誰の声、なんだろう――?)


12


したっけ――始めますね。


――わかったわ。


頼む。


…………


まずは清潔にした剣を 焚き火で温めて――


その上にさっき獲った イノシシのお肉を乗せ 香草を振りかけて炙ります。


い、いい匂い……


……もうそろそろ、 食えるんじゃないのか?


焦りは禁物です! 塩コショウも振って しっかり香りが出たら、 さっき見つけた キャベツ的なやつを刻んで――


あれ本当にキャベツなのかな……


炙ってあったパンに お肉とキャベツを挟んで――


ハイ、おまたせしました! 特製スタミナ冒険家サンドの 完成です!


熱々のコーヒーもあります。 夜の洞窟はしばれるんで、 しっかり体温めてくださいね!


いただきまーす! ……っ! なにこれ、美味しすぎ!!


ああ。まさか、野営中に こんな美味い飯にありつけるなんて 思わなかった。


…………


……あれ? エレノアさん、もしかして お口に合いませんでした……?


……いえ。 あまりに、美味しすぎて…… 気持ちが、言葉にならなくて……


そ、そんな大げさですってばぁ……


大げさなんかじゃないって! はぁぁ~、しあわせ~♪♪


照れますってぇ~……


冒険家に必要な素養は、 強さだけではないんだな。


わたし、相方と比べて フィジカルでだいぶ負けてるので、 それ以外のトコで 冒険の役に立てたらなぁ~って。


それで、いろいろ 勉強してるんです!


ミーシアさんは、どうして 冒険家になったんですか?


えぇっと、では―― わたしと、メルカ……っていうのは 第一次調査隊の中にいる 幼馴染の名前なんですが――


ちっこい頃、古本屋で、 ふたりのお小遣いあわせて一冊の 冒険記を買ったんです。 すごく有名なやつなんですけど。


そんでふたりして、 はっちゃきこいて読みふけって――


狭い故郷の外には、わたしたちが 想像もできないような―― たくさんの島々が 広がってるんだ、って知って。


いろんなルーンの恩恵で、 島ごとの景色も文化も それぞれ全然違うもんね。


ああ。 新たな冒険に出かけるたび、 オレも驚いている。


ま、そういう刺激とか驚きを 肌で感じられるのが、 冒険家の醍醐味だもんね。


…………


だからわたしとメルカも、 誰も見たことないどこかを いつか冒険して――


誰かに夢を与えられるような、 そんな冒険記を書くのが夢なんです。


……ミーシアさんたちは、 自分がもらった感動や驚きを、 他の人にもあげたいんですね。


そういうのって、良いね。 なんていうか――まっすぐでさ。


だから今回の依頼はチャンスだー! って感じで、なまら 張り切ってたんです。


誰も見たことのない 正体不明の島なんて―― 冒険のしがいありまくりですし。


チンチラだけ、腰痛で 第一次調査隊に 参加できなかったんだったな……


ミーシアです。腹痛です。


……依頼によっては、 ドタキャンってギルドの記録に 残っちゃうものね……


はい。ですから、 せめてメルカだけでもって 無理やり送り出して……


でも――もしわたしが あの子ひとりで行かせなければ…… もしかしたら、こんなことには……


――ほら、暗い顔しないの。


ぶぇ!? ほっぺた、ぐにーって しないでくださいー!


それじゃあさ―― あんたの相棒もパパっと助けて、 今度こそ、そのメルカって子も 一緒に冒険しなくっちゃね?


……! はいっ!!


あ、じゃあわたしも 聞いていいですか?


セレナさんとヴァイスさんは、 なして冒険家になったんです?


13


うぉぉぉお――!!!


消えろぉぉぉぉお!!!


ああ…… ありがとうございます……!


早く逃げて!! こいつらはあたしたちが 食い止めるからッ!!


倒しても倒しても湧き出てくる。 きりがないな。


こいつらや、世界に広がっていく <[AC0D0D]闇[FFFFFF]>から感じるこの気配――


ああ、間違いない―― <[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>の力だ。


……ッ! どうして、よりによって今――!!


――ほんのわずかな 行き違いだった。


大きな災害に見舞われた、 とある島での人命救助――


ヴァイスと一緒に、 そんな依頼に出かけていた間に <[AC0D0D]それ[FFFFFF]>は起こった。


<[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>の覚醒と、それによる 世界規模の<[AC0D0D]闇[FFFFFF]>の侵食―― 後に<[AC0D0D]常闇の災厄[FFFFFF]>と呼ばれる ことになった、その出来事。


世界を黒く塗り潰そうとする <[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>と、飛行島のみんなとの 世界の命運を懸けた死闘は――


――かつて<[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>の 後継者候補だったあたしたちが 直接関わることなく、 アイリスたちの手によって決した。


見つけたぞ。こんな所にいたのか。 キャトリーヌたちが探していたぞ。


誰よ。 ……ちょっと一人になりたくてさ。


――お前が考えていることは わかる。


<[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>との最後の決戦に、 オレたちは参加できなかった。


<[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>の後継者候補だった、 オレたちが。


お前が感じているのは、負い目だ。


……ほんっとデリカシーないわね、 あんたって。


……お前が依頼を受けていなければ あの島の人間たちは 助からなかった。


あの時、お前やオレが あの島にいた意味は、 たしかにあったはずだ。


なによ。なぐさめてくれてるわけ?


そんな器用なことはできん。 オレはアホだからな。


たしかな事実を言ったまでだ。


……一応ありがと。 言っとくけど、無駄だなんて 思ってないよ。


もし、こうなることが あらかじめわかってても―― あたしは、この島の人たちを 助けようとしたと思う。


でも、やっぱり―― 考えちゃってさ。


何を。


<[AC0D0D]波蝕の島[FFFFFF]>での戦いで。 あたしのせいでたくさんのものを 傷つけて、失って―― あたしは、この生命を永らえた。


その後も、たくさんの 優しい人たちと出会って、 背中を押してもらって――


それで、あらためて誓った。 [世:・][界:・][を:・][平:・][和:・][に:・][し:・][た:・][い:・]って。 そのために戦いたいって。


ああ。


でも、そんな大それたこと 言ったクセに。悪い<[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>を 倒すって昔誓ったあたしが、 アイリスや皆に全部押し付けて…… 何もできなかった。


オレたちは万能じゃない。 ただの、ひとりの人間だ。


誓ったからといって。 強く思ったからといって。


思い通りにならないことの方が、 多いんだ。


……セレナさん? 


ん? あ、ご、ごめん! ぼーっとしてたっ!


セレナさん、大丈夫ですか……? 顔色があまりよくないです……


大丈夫だいじょぶ。 ほら、もう夜遅いし、見張りの 順番決めて休まなくっちゃ!


……はい。


――――


ふと、思い出した。 エレノアのことを聞いたとき、 あたしが彼女のことを どう思ったのか――


こんな小さな女の子が、 たくさんの辛いことを抱えて、 それでもこの世界の未来を 守り通したことを―


自分の力を、最後まで 正しく使えた彼女のことを――


あたしは――


14


――? ……ここ、は……?


エレノア?


あ……あなた、は……? ここは――


ふふ、寝ぼけているのね。


まだ休んでいて大丈夫よ。 私が見ていてあげるから。


あの、私…… 怖い、夢を……見た気がして……


怖い夢?


あなたが…… 私と、世界を救うために…… しんでしまう、夢……


そのことさえ…… ぜんぶ忘れてしまう、怖い夢を……


……大丈夫よ、エレノア。 私はここにいる。


私、これからもずっと…… あなたと一緒にいたいです。


……エレノア?


だって、あなたは…… 私に、光をくれた人だから……


……ううん。逆よ。


私に光をくれたのは、 あなた。エレノアが 生きていてくれたから――


誰よりも罪深い私は、 それでも――私でいられた。


あなたの未来のためなら、私は――


――まって。いかないで――!


……エレノア? どうしたの?


わた、し……私は……っ!!


エレノア。


ほら、あたしの手ぇ握って。 大丈夫だから。


……もう平気? 落ち着いた?


はい…… ありがとう、ございます……


……もしかして、何か思い出した?


いえ……まだ、何も……


……セレナさん。もしも私のことで 知っていることがあるのなら、 教えていただけませんか?


不安なんです。 自分が何者なのか、 何も思い出せないことが。


なのに、得体のしれない 胸騒ぎだけが―― 膨らみ続けていることが。


……そうね。 さっきはミーシアがいたから、 ちゃんと説明できなかったし。


すぅ、すぅ……


あんまりうまく話せないと 思うけど――


……別の世界の未来から、 私はやってきた――?


あんたのいた未来では、 ソウルも、ルーンも、生命も、 何もかもが失われて―― 死の世界に成り果てちゃったって。


その運命を変えるために、 あんたはこっちの世界に来て―― そして、この世界の未来を ちゃんと守ったって。


……本当にさ、すごいって思った。 そんなにすごいことを、 ちゃんと最後までやり遂げた エレノアのことが……


ですが、私にそんな力が……?


あんたは未来のアイリスから…… <[AC0D0D]光の王[FFFFFF]>の力を継いだんだって。 もっとも、その力は もう消えちゃって、 残ってないらしいんだけど……


アイ、リス……


…………


エ、エレノア……!? えーっと、こういうときは!? な、泣かないでぇ!


どうして……何ひとつ、 思い出せないはずなのに……


――涙、だけが――


15


ふッ――!!


(……夜になって、 魔物が増えたか。 洞窟があって助かった)


グァァァァアアアア!!!!


……弱い。


弱い。


――弱い!


<[AC0D0D]黒の王国[FFFFFF]>―― その六大貴族の一つである グリーガー家に生まれたオレは、 悪しき<[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>を討ち、 新たな王となるために育てられた。


見事だ、ヴァイスよ。 稀代の天才だよ、お前は。


だが、お前はものを知らなすぎる。


ああ、オレはアホだからな。


そういうことではない。 物事の見方、捉え方。 視野の問題だ。


己を砥ぐのみでは、 真なる武は為らん。


世界を識ること。 それ即ち、敵を識ること。


お前はもっと、己以外に対し 興味を持たなければならん。


お前はやっぱりアホだな。


――ひたすら、力を磨いた。


武を極めるために。 誰よりも強くなるために。


王の座というやつに対して、 さほど興味はなかった。


だが、力ある者の責任というやつは 何となく理解できたし、 それを自身が果たすことにも 疑問はなかった。


おろかにも、そう思っていた。 だから――


当時、<[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>にあだなす者を 始末して回っていたあの男と戦い、 そして無様に敗れたその瞬間――


積み上げてきたオレの全ては、 意味を失った。


だが、永い刻を経て、 この時代で再び目覚め――


オレを縛り続けてきた<[AC0D0D]敗北[FFFFFF]>を 打ち倒したその瞬間―― オレの武は、 再び意味を取り戻した。


曇りのなくなったこの拳で、 今度こそ役目を果たせると。


あの強大な<[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>と、 今度こそ純粋に力をぶつけ合う日が 来るのを、密かに願っていた。


だから――


<[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>が討たれ、 多くの生命が奴の手によって これ以上奪われることのなくなった ことに安心すると同時に――


何かが空っぽになったような。 そんな感覚だけが、あった。


(オレの武は、常に…… 自身の乾きを、欲望を、意味を、 満たすためだけにあった)


グルルルルルゥ――


(ならば、振るう先を再び見失った 今のオレの拳に…… どんな意味がある?)


ガァァァァァアアア――!!


獣でも、誰でもいい――


――こたえてくれ。


16


(……これであらかた片付いたか)


(まだまだもちそうだ。 セレナたちは、まだしばらく 寝かせておくか――)


――ヴァイスはふと夜空を仰いだ。


……! これは――


落ち着いた?


……はい。大丈夫です。 すみません、セレナさんも 疲れているのに……


いいって。 今はヴァイスもいないし、 気にしないで――


おい。


どわぁぁぁあ!?!?


わーーーー!? 賊ですかぁー!?


みんな、外に出てみろ。 面白いものが見られるぞ。


ふぁぁ……


で、何なのよ。こんな夜中に……


空を見てみろ。


空……?


――わぁ……!!


実際に見るのは初めてだが、 オンドレというんだろう?


オーロラの間違いでは?


ぜんぜん違う。


というよりこれ、 たぶんオーロラじゃないです…… <[AC0D0D]氷の国[FFFFFF]>で見たのと違う……


……綺麗…… まるで、夜空にかかる虹のよう……


なんだか…… この世の景色じゃないみたい。


どんな文献にも、 こんな大気現象のことは 記されてなかったです……


……もしかしたら、この島でしか 見られない現象なのでしょうか?


かも……


それなら、これを見たのは―― この世界で、オレたち調査隊だけ かもしれないんだな。


何よ、ヴァイスも結局 そういうの興味あるんだ? 冒険家のロマンってヤツ。


マロンはわからんが――


この世界は広大で未知なのだと、 この景色を見て――あらためて 肌で感じた。


お前たちと出会い、 そしてこの島に訪れなければ――


きっと、一生気づくことのなかった 感覚なのだと思う。


……そーね。そうかも。


……メルカも、見たのかな。 この景色……


きっとね。 感想を聞くためにも、 早く見つけたげないと!


――はいっ!!


(なんて、美しい光景だろう…… 世界とは……こんなにも、 綺麗なものだったでしょうか?)


…………


……ねぇ、エレノア?


あたしたちがこうして、 こんなに綺麗な空を 眺めてられるのはさ――


……いつかのあんたが、 あたしたちの未来を守ってくれた おかげだって思ってる。


だ、だから、 ありがとう、というか―― いろいろ不安かもだけど、 落ち込まないで ほしいっていうか……


……えっと……


ほら、要するに、その…… あんたはすごい奴なんだしさ? だから記憶なんてそのうち、 きっとコロっと戻って――


……ありがとうございます。 やっぱり、セレナさんは 優しいんですね。


い、いやいや、 そういうんじゃないってば!


口下手にも程があるな。


う、うるっさいな……


――よし。


準備完了です。


これまでのペースなら、 今日の日中には島の最深部まで 進めるはずです!


オーケー。それじゃ―― 張り切っていくわよ!


17


もうだいぶ、島の奥まで 進んだはずだけど――


延々と、森が続いてますね……


――お前たち、森が開けるぞ。


これ、は――


……遺跡か?


はい、明らかに人工の建築物です!


じゃあこのエニグマ島は、 無人島なんかじゃなくて、 人が住んでるってこと……!?


いえ、ちゃんと調べないと わからないですけど…… どの建物も朽ちかけてます。


長いこと、放置されていたんじゃ ないでしょうか……


どこからともなく現れた島に、 どこかへと消えた島民――か。


ほんと何なのよ、この島は……!


ということは―― そこらに残っている足跡は、 第一次調査隊のものか。


第一次の人たちも、 少なくともここまでは 辿り着いてたってわけね。


……メルカ……


それにしても―― 住みにくそうな建物だな。


ツギハギのオブジェみたい…… こんな建築文化、 聞いたことない……


まるで、建物同士が ぐちゃっと混ぜられたみたい…… 少し不気味だわ。


……私、は…… この、場所に……来たことが……?


――生徒会長、大丈夫か。


か、顔色真っ青です! 少し休みましょう……!


いえ、大丈夫、ですから――


ダメ。 せっかく屋根のある場所に 着いたんだし、少し休憩するわよ。


ですが、ミーシアさんの お友達のことだって…… 先を急がないと……!


……平気です。 今はエレノアさんの方が心配です。


何が起こるかわからん。 オレは外で周りを警戒する。


ん、お願い。 何かあったらすぐ教えて。


室内もボロボロですね……


休めるだけマシでしょ。 エレノア、少し横になって?


……はい……


あ、く……


エレノア!?


平気、ですから……


……少し中を調べてみるわ。 もしかしたら、この島の正体に 繋がる何かが見つかるかも。


了解です。 気をつけてくださいね……


18


周囲を警戒していただけの はずだが――


――ここは、一体どこだ? 同じ風景ばかりで場所がわからん。


(この匂いは――)


(見つけた。 これは――やはり血の跡か)


(まだ新しい。 第一次調査隊の誰かのものか?)


(足跡が途切れている。 ここで<[AC0D0D]何か[FFFFFF]>に襲われ―― そして、どこかへ消えた?)


(いったん、セレナたちとの 合流を急いだ方がよさそうだ。 帰り道はわからないが――)


――けて――くれ――


誰か、誰か――


お前は……


あ、た、たす――助けて――


いったい何があった? その負傷は? 仲間はどうした?


みんな、みんな―― アイツにく、く、喰われて――!


……アイツ? 喰われた?


そ、そうだ……! 仲間も…… きっと第一次調査隊のやつらも…… みんな、アイツに……!!


落ち着け。順を追って――


くそぉ! 何なんだ、 何なんだよぉこの島はッ!? ちくしょう、ちくしょう……!!


(……完全に混乱している。 いったい何を見た?)


なあ頼む! オレを逃がしてくれ! ここから――


死にたく――


――な――


――――――――


(……消えた!? 違う―― 何かに飲み込まれた…… 一瞬で!)


――――――――


(……敵の姿が見えん。 まずい。やられる)


(視覚に頼るな。 感覚を研ぎ澄ませ。 大気の揺らぎを肌で 感じ取れ――)


――――――――!!!


――チィッ……!


――――――――!!!!!


なんだ、こいつは――!?


19


(……エレノアは、いったい この島の何に 衝き動かされてるんだろう?)


(あの子の記憶が戻ったら…… この島のことも、もしかして 何かわかるのかな)


あいったぁ!?  ……? これ、本棚……? う……難しそうな本がいっぱい……


何か見つかりましたか?


ミーシア! エレノアは?


少し、一人にしてほしいって…… すぐ隣の部屋なので、何かあったら 声出してくださいって 言ってあります。


……! それ、本棚ですか?


うん。今見つけたばっかで、 ぜんぜん調べてないんだけどさ。


<[AC0D0D]ガルシャー旅行記[FFFFFF]>全十巻に、 <[AC0D0D]ゼルキア航海録[FFFFFF]>全六巻…… <[AC0D0D]カストリア祭祀書[FFFFFF]>に、 <[AC0D0D]ブーゼの魔道書[FFFFFF]>の写本……!


え、えぇと……?


すごい……ここに住んでた人、 かなりの読書家だったみたいです!


そ、そう……よかったわね……


あ! <[AC0D0D]勇者ポロッコの大冒険[FFFFFF]>まで 揃ってる!


あ、あたし先にエレノアのとこ 戻ってるわねぇ……


――え? あれ?? え???


……これ、おかしいです。 見てください。


勇者ポロッコの大冒険の 十巻に、十一巻に…… この本がなに?


……ポロッコは去年、 九巻が執筆されたばかりです。


つまり……?


――十巻以降なんて、 [存:・][在:・][す:・][る:・][は:・][ず:・][が:・][な:・][い:・]んです!


存在しない、って…… 現にそこにあるんでしょ?


ファンメイドの偽物……? ううん、シルフゴートの革と赤蝋で 仕立てられた装丁に、 繊細かつ硬質な文体…… 間違いなく本物です……!


……何よ、それ。 そんなの。そんなのまるで……


この部屋だけ、[未:・][来:・]から 飛んできたみたいな――


ま、まさかね……? そんなこと――


いえ、荒唐無稽ですけど…… そうでもないと、 おかしいんです……


ポロッコだけじゃないです。 よく見たらこの本棚―― 存在するはずのない本が何冊も……


戦闘音……外から?


まさか、ヴァイスさんが……?


……行ってくる! ミーシアはエレノアを見てて!


20


うぉぉぉぉぉおお――!!!


――――…………


(破壊したそばから再生していく。 有効打にならん――!)


――――――――!!!


(攻撃に殺気がない…… 動きが読めん。 本当に生き物なのか――?)


(まるで―― 人の形をした災害だ!)


ヴァイスッ!?


来るなッ!! エレノアとミーシアを 連れてここを離れろッ!!


――――――――!!!!!


ぐァ……ッ!!


ヴァイスを――離せぇぇぇえッ!!


なに……!?


……!? け、剣を持った腕が―― 生えてきた!?


この剣は…… あの冒険家の人が持っていた――


見ろよ、俺の愛剣を? 六つの希少ルーンを組み込んだ 特製の魔法剣!


それに、剣を持ってるあの腕も…… あの人の……!!


……奴はさっき、あの冒険家を 丸ごと飲み込んだ。 まさか、こいつは――


――――――――!!!!!!


異形の怪人の、その全身から――


――無数の腕や武具が、 触手のごとく[蠢:うごめ]きながら現れる。


な、なに……これ……!?


……喰った者の肉体や力を、 自身に取り込めるのか?


第一次調査隊の冒険家たちは―― こいつに喰われたのか。


――――――――!!!!!!


うぁぁぁああああッッ!!! うぉぉぉぉぉおおお!!!


――――――――!!!!!!


がは……! この感触、感覚―― <[AC0D0D]闇[FFFFFF]>の塊なのか、こいつは……!


ううん、<[AC0D0D]闇[FFFFFF]>だけじゃない…… もっとおぞましくて、 ぐちゃぐちゃな――


! もしかして、コイツ――


――セレナさん、 どうか気をつけてください。


道化師エピタフは、 <HERO_NAME>から簒奪した <[AC0D0D]理[FFFFFF]>と……そして、 <[AC0D0D]闇の王[FFFFFF]>が<[AC0D0D]零[FFFFFF]>と呼んでいた 何らかの力を使い――


一体の、<[AC0D0D]魔物のような何か[FFFFFF]>を 生み出しました。


何か、って……?


いびつな仮面を着けた、 暴威の塊のような何か――


あのたった一体の敵相手に、 私たちは歯が立ちませんでした……


――――――――!!!!!!


(……勝てるわけない! 飛行島の皆でさえ勝てなかった奴に あたしたちだけで……!)


はぁ、はぁ…… セレナ、オレが時間を稼ぐ。 ミーシアとエレノアを連れて、 ここを離れろ!


できない……! こんな化け物、 このまま放っておいたら――


――きっと、もっとたくさんの 生命が奪われる……!!


――皆、さん……?


エレノア……!?


ま、待ってくださいエレノアさん! きゅ、急に足はや――


―――――――――――――――― ――――――――!!!!!!!!


ひ、ひぃ……!? な、何ですかコイツ……!?


この胸騒ぎの正体は…… 私を、呼んでいたのは…… あなた?


貴様……!!


エレノアとミーシアに…… 近づくなぁ!!


きゃああああ!! ぐぅぅうぅ……!!


セレナさん、ヴァイスさん……!!


―――――――――――――――― ――――――――!!!!!!!!


……ぁ……


……エレノア、お願い。 世界を救って……


ああ、そうだ……私は――


セレナさんたちを、みんなを…… いえ……


この光は……?


この世界を―― 未来を――守るために――


<[AC0D0D]*×○■!&%$…………[FFFFFF]>


うそ…… <[AC0D0D]光の王[FFFFFF]>の力は、 もう失われたって……


――――――――!!!!!!!!


――いきます。


21


……そん、な……


――――――………………


エレ、ノア……!


ヴァイス……!!


わ……わたしだってぇ……!


お前をやっつけないと! メルカを助けられないしょや……!


――――…………


……へ? その、槍……は……


その、腕は――メルカ、の――?


っ! だめ、ミーシア……!


……ッッッ!! よくもぉぉぉぉおおおお――!!!


――――!!!!!


――?


セレナさん……そんな……!!


うぁぁぁぁあああああ――!!


セ、セレナさん……? セレナさん!! しっかりしてください……!!


あぁ、うん……あんたは無事……?


ごめんなさい……! わたしを、かばったせいで……!


いいって……気にしないで。


(あ、これヤバ……死ぬかも……)


(でも……あの人は、きっと…… もっと痛かったんだろうな……)


なして…… なして、わたしのことなんか……!


なんでって。 ……生命は、大事でしょ。 いっこしかないんだからさ……


考えろ……セレナ…… お前が、ここにいる理由を……


……ここにいる、理由……


――――――――!!!!!!


(――! 避けられな――)


あんたの、相手は……あたしだ。


セレナさん!? だめです、その傷じゃ……!!


ごめん、エレノア…… あたし、きっとあんたに嫉妬…… してたんだ……


え……?


……でも。 焦ることなんてなかった。 迷う必要なんてなかった……


あたしは、ちっぽけな―― たった一人の人間だ。


できることなんてタカが知れてる。 世界を守るだとか、 平和にするだとか…… 一生かけたって、できるかどうか。


だけど。それでも――


あの人に救われた生命で―― たった今、目の前の生命を 守れたように――


生命が、生命を守ることが―― その行いの連なりが、 強く、大きく膨らみながら――


いつか、この世界を 平和にすることに 繋がるかもしれないから――


――――……!!


それなら、あたしは…… これからも目の前の生命を 守り続ける……


それが、あたしの在り方だ……!


22


…………


(意識が、飛んでいたのか――)


……セレナ……エレノア……


(体が、言うことを聞かん……)


――――…………


ヴァイス……さん……


――――…………!!!


(……また敗けるのか、オレは?)


(いや、違う。[ま:・][た:・]じゃない)


(あの日の敗北は、 オレだけのものだった。 オレひとりの未熟であり、 オレひとりの無様であり、 オレひとりの敗走だった)


(今は違う。 オレの敗北は、すなわち――)


(仲間の、死だ)


――――!!!!!


無造作に振り下ろされた、 致死の一撃が――


――皆を守るように立った 満身創痍のヴァイスへと、 容赦なく迫る。


見切れない。かわせない。 やられる。


――ふざけるな。たまるものか。


強さへの、戦いへの―― 渇望のみで生きてきたオレに、 新たな<[AC0D0D]世界[FFFFFF]>を教えてくれた 仲間を――奪わせてたまるものか。


二度と戦えなくなっても構わない。 オレの生命などくれてやる。


――だから――


――――


ヴァイス? あんた、いま……


あの一撃を、受け流した……!?


(見えた。今、一瞬…… 確かに、奴の動きが)


――――――――??????


己を砥ぐのみでは、 真なる武は為らず―― 世界を識ること。 それ即ち、敵を識ること。


――――――――!!!!!!!


ああ、そうか。<[FF9600]世界[FFFFFF]>とは――


この世界は広大で未知なのだと、 この景色を見て―― あらためて肌で感じた。


お前たちと出会い、 そしてこの島に訪れなければ――


きっと、一生気づくことのなかった 感覚なのだと思う。


<[FF9600]世界[FFFFFF]>を識ることとは、 出会いであり、繋がりであり、 共感であり、絆であり――


他者の在り方を己に映す―― <[FF9600]鏡[FFFFFF]>に気づくことだ。


――――――――!!!!!!!


もう……無駄だ。 貴様の放つ剥き出しの暴威は、 ありありとオレの中に映っている。


――オレはもう、二度と敗けない。


セレナ、退いて傷を塞げ!!


はぁ、はぁ……! あんただって……死にかけでしょ!


――――――――!!!!!!!


(……みんな、傷が深い。 このままじゃ――)


(……ッ。私が本当に、 セレナさんの言う通り、 世界を守るような力を 持っているのなら――)


どうか―― みんなを守る力を――!!


<[AC0D0D]*×○■!&%$…………[FFFFFF]>!!


! 傷の痛みが、引いて……!


礼を言う。これで、存分に戦える。


―――――――――――――――― ――――…………!!!!!!


あなたが、この世界に 害なす存在であるのなら――


私たちが討ちます――ここで!!


23


――――…………


また再生した! これじゃキリがない……!!


――いや――


――――!!!???


効きました……!!


やはりか。 貴様の動作には規則性がある。


貴様が隙を晒さないよう、 常に隠し続けている[そ:・][こ:・]が―― 心臓部か。


――――――――!!!!!!!


はぁぁぁぁぁあああ!!! うぉぉぉぉぉおおお!!!


――――…………!!


これでぇぇぇ―― ――とどめだァァァァあああ!!!


――――…………


はぁ、はぁ……どうにか……


……ああ。倒せたようだな。


(……倒せた? 本当に? アイリスたちが総掛かりで 倒せなかった奴を……? 何だか、呆気なさすぎる気がする)


(まるで―― あれが本来の力じゃあ なかったかのような……)


……ごめんなさい。 私には、言葉が……


――生存者、探しましょう。 怪我して動けない人、 まだ残ってるかもです。


わたしたちは冒険家です…… それなら最後まで、 依頼をまっとうしないと。


……はいっ。


――!? エレノア!! 足元だッッ!!!


え――


エレノア……!!!


(――私、どうなって――? ――ここ、は――?)


(これは、私の記憶―― そうだ、私は終末の未来から―― やってきた――)


(アイリス様の代わりに―― アイリス様が守りたかったものを 守るために――)


(この世界を――守るために――)


――違うでしょ。


思い出して? アナタが守りたい世界は コッチじゃない。


どういう、ことですか……?


だってアナタは何も守れなかった。 未来も、世界も――


――大事なヒトとの、約束も。


……違い、ます…… だってセレナさんが言っていた――


私は、アイリス様との約束を―― 未来を守ることができたって――


だから、それを果たしたのは 違う世界のアナタ――


――<[AC0D0D]失敗したアナタ[FFFFFF]>じゃない。


――あ――


さあ、思い出して―― そして、取り戻しましょう?


今度こそ、<[AC0D0D]アナタの世界[FFFFFF]>を 救うため手に入れた―― 本当の力と、記憶を。


24


――――


エレノア、さん……ですよね……?


(このおぞましい気配は、 あの怪物と同じ―― いや、比べ物にすら――)


エレノアさん、大丈夫ですか? 様子が――


え?


……ふ、ふふふ。 あははははははははは――


……ああ、思い出しました。 ようやく、全部――


エレノアぁぁああ!!!??


何やってんのよ!? あんた――ミーシアを!?


何を? <[AC0D0D]敵[FFFFFF]>を斬り捨てた―― ただそれだけのことですよ?


ふふ――


……なぜお前から、 あの怪物の気配を感じる?


決まっているでしょう? 私がアレを喰らったから。


本来、アレは私がこちらの[世:・][界:・]に 顕界するための<[AC0D0D]門[FFFFFF]>であり、 そして供物に過ぎません。


もっとも、過程で何か 事故が起きたようですが。 不完全な顕界も、記憶の混乱も、 それが原因でしょう。


こちらの、世界……? あんた、さっきから 何言ってんのよ!?


……正気に戻れ、エレノア。


……正気ですよ。狂おしいほどに。


私の名はエレノア。 未来を守るため登極せし、 唯一無二の<[AC0D0D]王[FFFFFF]>――


ワケわかんないわよ! なんで…… どうしてあんたがあたしたちに 剣を向けるのよ!?


決まっているでしょう? 私が守るべき<[AC0D0D]世界[FFFFFF]>は―― こちらの<[AC0D0D]世界[FFFFFF]>ではないから。


ぐぁぁぁああああ!!? きゃぁぁあああああ!?


弱いんですね。 ……ああ、それとも――


戦えませんか? <[AC0D0D]エレノア[FFFFFF]>とは?


ふふ、さようなら――皆さん。


はぁぁぁぁあ!!


――エレノア!? ――生徒会長!?


剣を捨ててください! なぜ冒険家同士でこんな――


……え? その、顔は……私……?


ええ――初めまして、<[AC0D0D]私[FFFFFF]>


こらーエレノア!! 何いきなり走り出して――


……!? な、なによコレ……


エレノアが……ふたり!?


――アイリス、様――


ああああぁぁぁあ――ッッッ!!!


アイリスさん!!


なによ!? アンタ誰なの!? どうしてアイリスを……!!


――アイリスやみんなに、 手出しはさせない!!


ぐぅうっ!


――潰れてぇぇぇええ!!!


……! <[AC0D0D]慈愛[FFFFFF]>の檻……!!


あなたが何者なのかは、 わからないけれど――


これ以上、皆に手を出すのなら―― 私はあなたと戦います。


その……顔で……声でッ……!


<[AC0D0D]*×○■!&%$…………[FFFFFF]>!!


それ以上、喋らないで――!!!


くっ……!!


アイリスーーー!!!


――なんて、威力だ……!!


灼き尽くします――今すぐに!!!


……くっ!!


そんなこと、させない……!!


邪魔を――ッ!!


きゃぁあああああ!?


エレノア!!


あなたは、卑小で卑怯な もうひとりの私です…… アイリス様の犠牲から 目をそらし――


『アイリス様が守りたかったものを 守った』なんて美談に仕立て上げ、 優しい平穏を一人享受している――


……あなたは、何を言って……!


無力な[あ:わ][な:た][た:し]に、 できることなんて何もありません。


――エレノアッッ!!


相変わらずの鼻息ですね―― あなたは!!


……あなたは本当にエレノアなの?


私の知っているエレノアは、 こんなことをする人じゃ……!


……アイリス、様……


……そんな目で、私を……


――――


ちょっと、まちなさいよ! ねえったら!


あ……


いったい、なんだってのよ……!?


――何も、できなかった。


みんなが、アイリスさんが―― 私の顔をした何者かに 生命を脅かされていたにも拘らず。


彼女が私に向けて放った言葉が――


いつまでも、呪いのように。 頭の中に響き続けていた。